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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
728/2051

第728話 押し掛け芸術家(1)

「・・・・・・・・・ったく、今日も元気だな太陽さんよ」

 9月7日金曜日、午後3時過ぎ。影人はリンゴジュースのペットボトルを自販機から取り出しながら、そう呟いた。おそらくまだ30度以上はあるだろう。本当に暑い。影人はペットボトルを持って、校舎の日陰に移動して座った。

 いま影人は文化祭の準備の作業を少し休憩している状態だ。午後1時過ぎからずっと作業をしていたので、別にこれくらいは許されるだろう。まあ、他の小道具係のメンバーには何も告げずに教室を出たが、10分ほどで戻る予定だ。その間に何が起きるわけでもないだろう。

「つーか、俺元々1人で作業してるから関係ないか・・・・・・・」

 影人は冷えたリンゴジュースを飲みながら、ふぅと息を吐いた。リンゴの甘さが心地いい。生きているという感じだ。

「ふぁ〜あ・・・・・眠い。何だかんだ、昨日ソレイユの奴との話が終わったの遅かったからな。寝不足だぜ」

 大きなあくびを1つしながら、影人はガリガリと頭を掻いた。昨日影人が家に帰ったのは午後10時過ぎだ。何の連絡もせずにその時間に帰ったものだから、流石に母親には「せめて連絡しなさい! ご飯冷めちゃったでしょ!」と怒られた。影人の母親は基本は自由放任主義だが、そういう所は厳しいのだ。

 結局、影人が寝たのは午前1時過ぎ。起きたのが7時半過ぎなので、睡眠時間は6時間半ほど。普段の影人なら別にそれでも十分なのだが、昨日は戦ったのでそれくらいでは疲れが取れなかったのだ。

「しっかし、気がつけば筋肉痛もあんまり起きなくなったよな。最初の頃なんかは、よく筋肉痛が起こったもんだが・・・・・・・」

 左手を適当に開閉させながら、影人はふとそんな事を考えた。自分の肉体も少しは慣れてきたのだろうか。

「・・・・・ふっ、慣れってやつは恐ろしいもんだな」

 厨二前髪野朗はいつも通り1人で格好をつけると、再びリンゴジュースを口にした。美味い。やはり1人で静かに飲むジュースは格別だ。

「・・・・・・・・・・・」

 しばらく影人は無言で青空を見上げた。考え事などない。ただ無心で別に意味もなくだ。青空を見上げるのに理由などいらないだろう。

(・・・・・・昨日のソレイユの話。あの話で、今まで敵の親玉としか認識していなかった、レイゼロールの背景が理解できた。まさか、レイゼロールの奴にあんな過去があったとはな・・・・・)

 影人の脳内に浮かぶのは、あの西洋風の喪服を纏った白髪の女、いや女神の姿だ。今までは倒すべき敵としか認識していなかった。別に昨日の話を聞いて、その認識が変わったわけではない。レイゼロールは依然自分の敵だ。いやむしろ、レイゼロールの最終目的である、『死者復活の儀』が失敗すれば世界中全ての生命が滅びるという話を聞いた今では、よりレイゼロールを倒さなければならないという思いは強まった。なにせ、それは影人の命や、家族の命にも関わってくる話だからだ。

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