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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第727話 女神たちの思惑(4)

「チッ・・・・・・! 本当、ソレイユの奴も変わってるわ。あんたみたいな奴を救おうだなんてね・・・・!」

「ふん、それは我も同感だ。未だに我を友と思い、我を救おうと思っているお人好しは奴くらいだろう。全く、昔から変わらない。お節介な奴だ」

 吐き捨てるようにそう言ったダークレイに、レイゼロールは同意した。あの桜色の髪の女神は、何千年も自分の邪魔をし、自分をどうにか救おうとしてきた。別に救ってほしいなどとはカケラも思っていないのに。

「・・・・・・私はあんたもソレイユも大嫌いよ。・・・・・封印の解除はまた明日でいいわ。今はあんまり気分が良くないから」

 ダークレイは最後にレイゼロールにそう告げると、苛立ったように闇の中を歩いて行った。

「・・・・・・・・・・・それでいい。我とあいつを嫌い憎んでいる内は、お前はまだ生きようとするだろうからな」

 1人になったレイゼロールは、ダークレイが消えた闇を見つめながらそう呟いた。もう自分以外にこの言葉を聞く者はいないから。

(・・・・・・・先ほどのカケラを吸収した事で、我の失った力の半分は戻った。残り半分の力の詰まったカケラを回収すれば、我の力は全て戻り、『終焉』の力が戻って来る。そうすれば・・・・・・兄さんとの繋がりになる。『死者復活の儀』に必要な、死者に関連するものとなる。そして・・・・・)

 レイゼロールは懐からある物を取り出した。それは拳1つぶんくらいの石のようなもので、不思議な色合いをしていた。石の9割くらいが黒い色をしていて、残り1割は透明な色をしている。その石がただの石でない事を示すように、その黒は蠢いていた。当然だ、何せその黒の正体は闇。人の心の負のエネルギーなのだから。

(儀式に必要なエネルギーもあと少しで貯まる。このペースでいけば、4、5ヶ月といったところか・・・・・)

 その石のようなもの、その実はレイゼロールの兄の神を復活させる『死者復活の儀』に必要なエネルギー貯蓄の器とでも言うべき物だが、レイゼロールはそれを見つめた。ここまでエネルギーを貯めるのに、何千年とかかった。地道に焦らずに。

(我は人間どもとは違う。無作為に命を奪ったり、大量の人間たちを殺して、無理に負の感情を増大させ生き残った人間たちからエネルギーを回収するような、獣のような方法は取らない。我は神だ。理性があり、尊厳がある存在だ。いざとなれば、獣のように手段を選ばない人間やつらとは違う・・・・!)

 レイゼロールは人間を憎んでいる。自分から唯一の家族であった兄を奪った人間を。そして、レイゼロールが唯一心を許し、再び暖かさを与えてくれたあの人間を奪った人類を。人間たちは、同族であるはずのあの人間さえも殺した。その時から、レイゼロールは人間をもう2度と信じないと決めた。

 レイゼロールは、自分は軽蔑すべき人間たちとは違うという証明のためにも、エネルギーを集めるために地道な方法を取ってきた。命を取らず、人間を闇奴に変えた際のエネルギーを回収していくという地道な方法を。それはレイゼロールの意地のようなものだった。

(兄さんが殺されたあの日から、あの人間が死んだあの日から、我の地獄は続いている。無限の孤独な生は地獄以外の何者でもない・・・・・・)

 目を閉じ思い出すのは、兄とあの人間と過ごした日々ばかりだ。

 兄と2人静かに暮らしていたあの頃は幸せだった。他には何もいらないと思うほどに。兄はとても優しかった。

 兄を殺され1人絶望のままに過ごしていた頃に、あの人間と出会い過ごした日々は暖かかった。あの人間はどこか捻くれていて、素直に優しいとは言えなかったが、やはり優しかった。

(・・・・・・・・お前が殺されなければ、お前が我との()()を守ってくれた未来があれば、今の我は違った道を歩んでいたんだろうな・・・・・・)

 レイゼロールは自分が唯一心を許した人間の事を思い出しながら、内心そう呟いた。もう1度だけ、人間を信じてみてもいいかもしれない。あの時の自分にそう思わせた、あの人間と共に平和に過ごしていれば、今レイゼロールはこんな冷たい石の玉座に座ってはいないだろう。兄の死も、悲しく辛くはあるが乗り越えていたかもしれない。

 しかし、現実は違う。あの人間は殺され、再び絶望に落ちたレイゼロールが禁忌を侵しても、あの人間は蘇らなかった。もう1度会いたかったあの人間は、2度とレイゼロールの前には現れない。 

(だから、我は兄さんを蘇らせるのだ。孤独はもうたくさんだ。永遠の孤独など、耐えられない。我がまだ生きているのは、兄さんと再び会うため。兄さんと再びあの幸せな日々を過ごすため。それ以外に、我が生きている理由はない)

 レイゼロールの最終の目的はそれだけだ。もう1度最愛の家族と過ごし、この孤独から解放されたい。ただそれだけ。

 だが、いくら兄の神を復活させる儀式の準備を万全にしても、レイゼロールが兄と再び出会える確率は、どんなに高くても30パーセント。残り70パーセントの確率で、この地球上の全ての生命は死に絶える。ソレイユやラルバ、それに他の神界の神々はそれだけはさせまいと、レイゼロールの目的を阻止しようとする。

 それは当然だろう。神々の役割は、地上世界の安定。レイゼロールがしようとしている事は、その安定を大いに不安定させるかもしれないものだ。人間たちもレイゼロールの思惑を知れば、全力でそれを阻止しようとするだろう。

「・・・・・・・・・・だが、この賭けには付き合ってもらうぞ、人間ども。先に我から大切な者を奪ったのは貴様らだ。その結果、世界が滅びようともな」

 しかし、それでもレイゼロールは自身の目的を絶対に遂げてみせる。そう絶対。絶対にだ。

 孤独な女神はそう呟くと、そのアイスブルーの瞳を細めた。

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