第725話 女神たちの思惑(2)
「誰が人格破綻者だ! 俺にも人の心くらいあるわ! 言われなき中傷に俺は断固として抗議するぞクソ女神!」
ソレイユの言葉に一瞬で怒り狂った前髪は、ソレイユと同じようにテーブルを叩き立ち上がった。そしてどこぞのチンピラのように、座っていたイスに片足を上げた。前髪野郎のビジュアルと相まって、絶望的に似合っていない。どっからどう見ても、イキった痛い奴である。
「何が言われなき中傷ですかこのアホ前髪! どっからどう聞いても、正当な意見でしょう! そういうところが人格が破綻していると言っているんですが!?」
「アホか! そんなこと言ったら俺のさっきの言葉も正当な意見だろ! 神のくせに自分を客観視も出来ねえのか? 恥っずかしい」
「上等じゃないですかこの下等生物! あなたに神の力見せてあげましょうか!?」
「本性現しやがったなゴミ上位種! おーおー、見せてみろよ。こっちも下等生物の底力見せてやるからよ! ジャイアントキリングだぜ!」
ソレイユと影人は、先ほどのシリアスで感動的な雰囲気はどこへやら、近距離からお互いに罵詈雑言を浴びせあった。最近言い合いをしていなかったから、何だか随分と久しぶりな感じである。
「今日こそやるか!? このクソ女神!」
「やってやろうじゃありませんかこのクソ前髪! タイマンです!」
ギャースカギャースカと騒ぐ2人。そんな2人の様子を、影人の視聴覚から見聞きしていたイヴは、
『くくっ、本当飽きねえ奴らだぜ』
と笑っていたのだった。
「――ふん。相変わらず辛気臭い場所ね、ここは」
この世界のどこか、辺りが暗闇に包まれた場所。およそ100年ぶりに、自分たちの本拠地に戻って来た少女――『十闇』第3の闇、『闇導姫』のダークレイはつまらなさそうにそう呟いた。
「けっ、辛気臭いのはてめえだろ。100年前から変わらねえ、ずっと苛ついたような話し方しやがって。ガキかってんだ」
そんなダークレイの呟きに、冥がそう言葉を発した。その声は明らかに不機嫌であった。スプリガンと満足いくまで戦えなかった事が原因だと、明らかに分かる。
「・・・・・・・・あんたにだけは言われたくないわ。戦い戦い戦いって、それこそ子供みたい」
「ああ? 誰がガキだって?」
ダークレイに蔑むような目を向けられた冥は、その目に苛立ちダークレイに詰め寄ろうとした。だが、そんな冥をゾルダートが止めた。
「さっきの戦いの後で、その元気のよさは大したもんだがやめとけ冥。ダークレイのお嬢さんは、まだ力を解放してない。今お前がボコっちまえば、お前が嫌いな弱い者いじめになるぜ? まあ、俺は弱い者いじめ大好きだが、お前はそれを望まねえだろ?」
「・・・・・・・・・・チッ、クソが」
ヘラヘラとした笑みを浮かべながら、巧みに冥が聞かざるを得ない理由を述べたゾルダートに、冥はそう吐き捨てた。そして、冥はダークレイを一瞥すると、闇の中へと消えて行った。




