第723話 今、全ての真実を2(5)
「非難の言葉は言わねえが、厳しめの言葉は言ってやるよ。たぶん、俺しか言う奴がいねえからな。必要以上に故人たちに罪の気持ちを抱くな。それはある意味じゃ、死んだ者たちへの侮辱だ。『私の目的のために死んでごめんなさい』って言ってるのとあんま変わらねえぜ。舐めるなよ、戦ってる奴らはそんな事のために死んだわけじゃねえんだよ」
影人はその前髪の下の両目を少し細め、ジッとソレイユを見つめた。
「信念のために、仕事のために、誰かのために、そいつらは死んだんだ。そこにあるのは、そいつだけの意志。誰も彼も、その意志にケチをつける権利はない。そいつの死はそいつだけのもんだ。覚悟を以て戦い死んだ者に、憐れみはいらない」
それは戦う者としての言葉だった。影人も今は少なからず命のやり取りをする者になった。この考えが、影人の先ほどの「戦って死んだ者に対して何も思わない」という言葉に繋がっているわけだが、影人は別にソレイユにその事を言うつもりはなかった。これはあくまで影人の考えだからだ。
「そんな奴らに対して、お前がしてやれる事は、自分の目的を達成する事くらいだ。『レイゼロールを救う』っていう、甘くてクソほど困難な目的をな。それが唯一、死者への手向けになる」
影人はただ真摯に言葉を述べ続ける。
「だから、お前は何が何でも自分の目的を達成しろ。その覚悟を今一度持てよ。折れるなんて許されねえ。世界とレイゼロールを天秤にかけて、世界を選択する事をしたら論外だ。過去のお前がそう決めたのなら、今のお前はその気持ちを曲げるな。最後の最後までてめえの思いを貫き通せ」
「っ・・・・・・・」
目の前の前髪の長い少年からそう言われたソレイユは、雷に打たれたようにその眼を見開いていく。
「もちろんそいつは容易な事じゃねえ。過去の自分がそう決断しても、いつだってやるのは今の自分だからな。更にお前の場合は、背負ってるもんが重過ぎる。・・・・・だから、俺がお前を支えてやるよ」
「え・・・・・・・?」
影人は笑みを浮かべ、イスにもたれ掛かりながらソレイユに右の人差し指を向けた。影人に指を向けられたソレイユは、またしても驚いた顔を浮かべていた。
「お前が折れないように俺が支えてやる。レイゼロールを救うっていうお前の目的を手伝ってやる。前も言ったろ。俺はお前の剣だ。お前は俺を好きに使えばいい」
「な、なんで・・・・・・・・何であなたはそこまでしてくれるんですか? あなたは、ほとんど無理矢理スプリガンになった。私がしてしまった。恨まれて当然なのに、どうしてあなたは・・・・・・・・!」
ソレイユは泣きそうになりながら、影人にそう問いかけた。どうしてこの少年はこんな言葉を自分に投げかけられるのだろう。このままでは甘えてしまうではないか。泣いてしまうではないか。
「仕事だからな。結局、スプリガンになるって最後に決めたのは俺だ。それが過去の俺の決断。なら、今の俺はそれを全うする。お前に偉そうに言った俺がそれを出来てなかったどうしようもねえだろ?」
指を下ろした影人は仕方ないだろといった感じで、笑みを浮かべる。影人の答えを聞いたソレイユはその瞳から涙を流しながら、つい笑ってしまった。
「何ですかそれ・・・・・・あなた精神力強すぎますよ。思わず笑っちゃったじゃないですか」
「はっ、俺の精神力を舐めるなよ。俺は孤独と友達な男だぜ?」
「その返しは全く面白くないですけど・・・・」
「ふざけんな。雰囲気ぶち壊しじゃねえか」
涙を拭いながらそう言ったソレイユにマジトーンでツッコミを入れる影人。そこは笑っておけばいいところだ。
「ふふっ・・・・・・ありがとうございます影人。こんな私に真摯な言葉を掛けてくれて、こんな私を支えると言ってくれて。あなたのような人間と出会えた。私は本当に幸せ者です」
ソレイユは晴れた顔で笑みを浮かべた。ようやくいつも通りに戻ったか。影人は内心でやれやれと首を横に振った。
「では影人。あなたの言葉に甘え、お願いします。・・・・・・・・・・・私と一緒に、レイゼロールを救ってくれますか?」
ソレイユがそう言って、右手を影人の方へと差し出して来た。その顔は変わらず笑顔だ。いい表情してやがる。影人はそう思いながら、自身も笑みを浮かべた。
「おうよ。仕方ねえな」
そして、影人はソレイユの右手を自身の右手で握った。




