第720話 今、全ての真実を2(2)
「そうなります。儀式が失敗すれば、供物がわりの『終焉』の力と、儀式に使われている膨大なエネルギーが暴走します。暴走した力は『終焉』の力を乗せ、世界へと駆け巡る。『終焉』の力は全ての生命を終わりに、つまり死へと還しますから、結果的にレイゼロール以外の全ての生命は死滅。地球は死の星へと変わるでしょう。そして、レイゼロールはそうなっても気にはしない。彼女からすれば、兄の神とあの人間がいない世界など、滅びても構わないからです」
「無茶苦茶だなおい・・・・・・そんな理由で世界を滅ぼされてたまるかよ」
ソレイユは右の人差し指に続き、中指を立てた。影人はため息を吐きながら、大多数の人間の意見を代弁するかのようにそんな感想を漏らした。
「第3の問い、『エネルギー回収はまだ終わっていないのか』についてですが、これはおそらくまだ終わっていないと思われます。人を1人闇に堕とす際に得られるエネルギーの量自体はたかが知れています。その方法で神を復活させるならば、必要なエネルギーを貯めるには、何千年という月日が掛かります。しかし、エネルギーが全て貯まる日はそう遠くないでしょう。レイゼロールは今日まで毎日ずっと、闇奴を生み出しエネルギーを少しづつ回収してきましたから・・・・・」
ソレイユは右の薬指を立てた。これで3本目だ。
「つまり闇奴が出現しなくなった時が、もうエネルギーが全部溜まったって事になるのか・・・・・・・・しっかし、こう言っちゃなんだが、あいつ凄げえな。何千年も地道にエネルギーを溜め続けて、カケラを探し続けて来たって・・・・・尋常じゃない思いの強さだ。少なくとも、俺なら途中で絶望して折れてるぜ」
影人はどこか畏怖するようにそう呟いた。鋼のような精神力、という言葉ですら生ぬるい。絶対の精神、とでも言うべきか。
「ええ・・・・・・・・あの子は、ずっとずっと孤独なんです。ですが、今のところ誰にもレイゼロールを孤独からは救えない。あの子の過去を知っている身としては、あの子に同情します。ですが・・・・・だからといって、世界を危険に晒すわけにはいきません」
ソレイユは悲しげな表情を浮かべるも、そう言い切った。
「・・・・・・・・第4の問い、『レイゼロールの浄化とはいったい何なんのか』について説明しましょう。あなたが言うように、浄化はレイゼロールを斃すという事ではありません。そもそも、神であるレイゼロールは不老不死です。斃す手段に関しては、神殺しの武器を用いるなどの手段でしか斃す事は出来ません」
ソレイユはそこで一旦言葉を区切ると、こう説明を続けた。
「浄化とは光の力を以て闇を晴らす事。暴走させられた心の闇を浄化する事で、闇奴や闇人はレイゼロールの眷属という状態から、人間へと戻るのです。・・・・・・レイゼロールは元々その本質が闇。闇奴や闇人のように光の本質から闇の本質に変容した存在ではありません。ゆえに、闇を晴らしたところで元の存在に戻るという事ははない。ですが、レイゼロールにも心はあります」
「・・・・・・なるほどな」
ソレイユが言わんとしている事を察した影人は、ついそう言葉を漏らしていた。




