第72話 対決、レイゼロール下(2)
「・・・・・・・・・」
レイゼロールを吹き飛ばしたことを確認した影人は、結界の中心部まで移動した。
見上げると、頂点部の部分に砕けたような跡がある。むろん、影人が外から蹴破った場所だ。
影人は右手を掲げた。すると、右手から爆発的な闇の奔流が立ち上がり、空へ昇っていった。
奔流は頂点部の影人が蹴破った場所から外に出る。その時点で奔流は全て空に上がった。
上昇した闇の奔流はある一定の高度まで昇ると、突如、先鋭化した闇に変化し結界に降り注いだ。
「「「「!?」」」」
その黒い雨は結界を破り、地上にまで降り注いだ。結界の破壊条件は、外から一定の衝撃を与えること。ならば確かにその方法は、結界を壊すのにはうってつけの方法だろう。
だが、いかんせんその雨は殺傷力が高すぎた。
その雨はコンクリートの地面に突き刺さるほどの鋭さを持っていた。
突然訪れた事態に、傍観者であった4人は混乱した。
「無差別だ!? 野郎どういうつもりだよ!?」
「知らないよそんなこと! みんな避けろ!」
「よ、避けるってどこにですか!?」
「避ける場所なんてどこにも・・・・・・!」
そうこうしているうちにも、闇でできた黒い雨は4人の場所に降り注ごうとしていた。当然だが、それは面による攻撃だ。それを避けるというのは、いかに光導姫と守護者といえども、不可能に近い。
しかし次の瞬間、4人は光に包まれ姿を消した。
「・・・・・・! やっとか・・・・・・」
破壊の雨が降り終わった後、影人はガクリと膝をついた。息が荒い。もう体力が限界だった。
(何だ・・・・・・いったい何が起こった? 誰が俺の体を使ってやがった?)
レイゼロールに首を絞められていた時、影人は何かの意志のようなものを感じた。そこから体の自由を何かに奪われた。
意識はあった。だから何が起きていたかは記憶にある。しかし、自分の身に何が起こったのかは全く分からない。
そして今やっと体の自由が自分に戻ってきたというわけだ。
(結果的には上々だ。レイゼロールには一撃喰らわせたし、結界も完全に破壊できた。ただ、土壇場であいつらを危険な目に合わせちまった・・・・・・)
一旦、その疑問は置いておくとして、影人は結果のことについて考えた。
結界を完全に壊したことで、転移は可能になった。恐らく、光導姫の眼を通して事態を見守っていたソレイユが4人を転移させたのだろう。それにしてもタイミングはギリギリだったが。
後でソレイユに感謝の言葉を言わねばならないだろう。癪ではあるが、そこは素直にならないといけない。
(ッ! そうだ、レイゼロールは・・・・・・!)
自分の行為によって、周囲は中々にひどい破壊の跡が残っているが、それは仕方がないと割り切りレイゼロールが吹き飛んでいった方向に目を向ける。
金の瞳でレイゼロールが飛ばされたであろう場所の周囲を見るが、レイゼロールの姿はどこにも見当たらなかった。
「逃げたのか・・・・・・?」
離れた場所に血だまりが出来ていたが、それだけだった。周囲にレイゼロールの姿はない。ならば、レイゼロールもどこかに転移したのだろうか。レイゼロールは自分の影に沈みどこかへと消える事が出来ると影人は知っていたので、そう考えた。
(俺が結界を壊したことで、あいつも転移できたってわけか。まあ、元々あいつが展開した結界だから、自分で解除も出来ただろうけどな)
ちなみにレイゼロールが退いてくれたのは、本当に助かった。レイゼロールがあの傷で退却することを優先してくれていなければ、自分は最終的には死んでいたかもしれないのだから。
「・・・・・流石に死んじゃいないだろうが、それにしてもエグい攻撃をしたもんだぜ」
普通の人間ならまず間違いなく即死だ。何せ、斬って刺して蹴飛ばしてだ。そんなことをされれば、人間は間違いなく死ぬ。
「さて、これからどうするか・・・・・・」
周囲の惨状から目を背けながら、影人は思考する。本来ならばソレイユと直接話したいことがあるのだが、あの事態を見ていたソレイユから何も語りかけてこないということは、ソレイユが話せない状況にあるということだろう。
(たぶん、ソレイユはあいつらを神界に転移させてその対応をしてるってとこだと思うが・・・・・・)
影人がそんなことを思っていると、周囲がにわかに騒がしくなってきた。
何事かと影人が周囲を見渡せば、まばらにだが人や車の姿が眼に入る。
「やべっ! そういや、あいつらがいないから結界がなくなってるのか・・・・・・!」
ここは大通り、本来なら人通りが多い場所だ。人払いの結界を展開していた光導姫がいなくなった今、その効果はなくなり徐々に人が戻り始めてきたのだろう。
「三十六計逃げるにしかずだ・・・・・・!」
影人は急いでその場から逃げ出した。




