第717話 今、全ての真実を1(4)
「・・・・・・結果は先に言いましたが、儀式は失敗に終わります。『死者復活の儀』は禁忌の儀式ですが、普通は遺物と神の力があれば、人間1人程度の復活ならば、ほとんど確実に成功するはずでした。しかも、レイゼロールは『終焉』の権能を持ち、地上で唯一力を振るう事が出来る特別な神。失敗する方が、普通はおかしいのです。ですが、結果はそうでした」
「そうなのか・・・・・・つーか、『死者復活の儀』か。そんなものがこの世にマジであったんだな・・・・・で、流石の神様でもその儀式は禁止だと」
「神といえど、絶対最低限のラインはありますからね。『死者復活の儀』は、古来よりずっと禁忌とされています」
影人が漏らした感想に、ソレイユは頷いた。影人には神の事はよくわからないが、神にも倫理という概念はあるようだ。
「儀式が失敗したレイゼロールは絶望しました。絶対に成功させる確信があったから、その絶望はかなり深かったでしょう。ですが、レイゼロールはそれだけでは止まりませんでした。今度は、兄の神を復活させようとしたのです。しかし、『死者復活の儀』は禁忌。禁忌を犯したレイゼロールを、神界にいる神々は許しはしませんでした。・・・・・私とラルバは、レイゼロールの絶望をよく知っていたので反対したのですけどね」
ソレイユはフッと自嘲気味の笑みを浮かべた。おそらく、当時の自分の無力さを思い出しているのだろう。影人はまだソレイユと関わってそれほど時間は経っていないが、それくらいはわかる。ソレイユとは、そういう神だ。
「私たち神の最上位に、『長老』と呼ばれる男神がいます。長老は私やラルバを含めた他の神々と違い、特別な権能をいくつか所持しています。その1つが、地上にいる神の神界への強制送還。レイゼロールは強制的に神界へと移動させられました」
ソレイユは言葉を続けた。
「長老からレイゼロールに告げられたのは、罰でした。『死者復活の儀』を行ったレイゼロールは、その『終焉』の権能と神としての力を半分剥奪する。それが長老がレイゼロールに下した罰。むろん、レイゼロールはその罰を受け入れようとはせず、長老と他の神々とレイゼロールは争いました」
「・・・・・・・・・その結果は?」
影人は静かにそう聞いた。
「いくら『終焉』の力を有していたレイゼロールといえども、神界で満足に力を振るえる神々が相手では勝てはしません。レイゼロールの『終焉』の力は神すらも死に誘う権能ですが、長老が何とかその力を防ぎ、レイゼロールは敗北しました。そして長老は、レイゼロールに罰を与えました。レイゼロールの『終焉』の権能と神としての大半の力を、結晶化させ、それをおよそ10のカケラに砕き、地上へと散りばめさせたのです」
「・・・・・・それが、あの黒いカケラの正体か」
話が繋がった。あのカケラに関するバックボーンを、影人は今ようやく理解した。最初に結論として述べていたように、あのカケラは元々のレイゼロールの力そのものだったのだ。
「そうです。長老はそのカケラに隠蔽の力を込めましたが、現在になってその力は効力を失い始めた。この前長老に聞いた時、『流石に数千年もすれば、ワシの力も弱まる』と確認しましたから。現在になってレイゼロールがカケラを見つけ始めたのは、それが原因でしょう」
ソレイユはここ最近にレイゼロールがカケラを一気に回収し始めた理由を影人に伝えると、残っていた紅茶を飲み干した。




