第716話 今、全ての真実を1(3)
「その人間と暮らしていた時期。おそらく、それがレイゼロールが最後に幸せであった時でしょう。レイゼロールが、この世でその心を許したのは2人。1人は、レイゼロールの兄の神。そしてもう1人は、その人間。後にも先にも、その2人以外レイゼロールが心を許した者はいません。・・・・・・・そして、その時からレイゼロールは変わりました」
「それは・・・・・・俺たちが知ってる今のレイゼロールになったって事か?」
レイゼロールの変化。それが示すものが、今のあのレイゼロールなのか。影人はソレイユにそう質問した。
「ええ、2人目の親しい者の死から、レイゼロールは今のようになりました。そしてそこから、レイゼロールはある目的のために行動を開始する事になります。その目的は・・・・・・・・・・・・死者の蘇生です」
「死者の蘇生だ・・・・・・・・・?」
レイゼロールの目的。それをソレイユから聞かされた影人は、どこか呆けたようにその言葉を鸚鵡返しに呟いた。
「・・・・・・レイゼロールは『暖かさ』を求めていました。兄の神と1人の人間によって触れた暖かさを。それは今でも変わりません。レイゼロールは今も、自分の凍ってしまった感情を再び溶かしてくれる暖かさを求めています。そして、その暖かさを取り戻す手段こそ、死者の蘇生です」
「・・・・・・・・・・・つまり、レイゼロールは兄の神とその人間を復活させようとしてるって事か?」
影人が推測の言葉を挟み、ソレイユにそう確認した。影人のその確認に、ソレイユは首を立てに振ったがこう言葉を付け加える。
「はい。ですが、現在レイゼロールが復活させようとしているのは、兄の神だけです。人間の方は、レイゼロールが遥か昔に蘇生を試み・・・・・・失敗していますから」
「失敗した・・・・・?」
「ええ。レイゼロールが人間を失ってから、およそ100年。レイゼロールはその間、1人で僻地に篭り自身の力を成長させました。その頃のレイゼロールは、ほとんど成体で神としての力も十分な時期になっていました。そこで、レイゼロールはある儀式を試そうとします。それこそが、『死者復活の儀』。レイゼロールは、かつて人間と住んでいた地に戻り、その人間と関わりのある物――その人間が着用していた服の切れ端を持って、その儀を行いました」
「・・・・・・・・・・・・」
ソレイユが言っている服の切れ端とは、先ほどレイゼロールが言っていた血のついた服の切れ端の事だろう。100年という時間を持って、自分を成長させたレイゼロール。そして、100年間レイゼロールはその人間の形見と言える物を大事に所持していた。どれだけレイゼロールがその人間の事を想っていたかが、影人にもよく分かった。




