第715話 今、全ての真実を1(2)
「ええ。そして、どういう成り行きがあったかは知りませんが、レイゼロールはその人間と暮らし始めました。人間を憎み恐れ、絶望していたレイゼロールがです。その事を知った時の私の驚きといったらなかったですよ」
「そりゃ・・・・・そうだろうな。俺もあのレイゼロールが人間と暮らしてたなんて、想像できないぜ」
氷のように無表情で仏頂面。闇統べるラスボス。そんなレイゼロールが、人間と暮らしていたなんて、レイゼロールの事を少しでも知っているなら、信じられないレベルの情報だ。現に、影人もそのイメージがどうしても思い浮かべる事が出来ない。
「あの時のレイゼロールは決して認めませんでしたが、その人間には心を許しているように私には思えました。少なくとも、あの時のレイゼロールは感情が豊かでしたし。私はその人間に期待しました。もしかしたら、この人間がレイゼロールを悲しみと絶望の底から救ってくれるかもしれないと。私はこっそりとその人間にお願いしました。『レールをどうかお願いします。あなたなら、あの子にまた笑顔を取り戻す事も出来るはずだ』と。その人間は渋々といった感じではありましたが、私の願いに頷いてくれました」
「レール・・・・・・レイゼロールの愛称か」
影人がポツリとそんな言葉を挟んだ。ソレイユの口からレイゼロールの愛称を聞いたのは初めてだったので、無意識的にそう呟いてしまったのだろう。あのレイゼロールにも愛称で呼ばれる時代があったのだ。
「ええ、そうです。今ではその愛称を知る者は、私とラルバくらいしかいませんが・・・・・・・ですが、残念な事に、彼がその約束を果たす事はありませんでした」
ソレイユの声音と表情が暗いものへと変わる。いや、戻るという方が正しいか。
「なぜなら、その人間が・・・・・・・レイゼロールを殺そうとしていた人間たちに、殺されてしまったからです。・・・・・・その時、私やラルバは地上にいなかったので、詳しい事情は分かりません。そして、その事が原因で、レイゼロールはまた絶望の底に叩き戻されました」
ソレイユが両目を閉じる。その仕草はまるで、当時のレイゼロールの悲しみに共感し、堪えているようだった。
「・・・・・雨の日の事でした。私とラルバが地上のレイゼロールの隠れ家に行くと、レイゼロールは外に出て雨に濡れながら、血のついた服を握りしめ天を仰いでいました。・・・・・・・・・レイゼロールのあの姿は、未だに鮮明に私の記憶に残っています」
ソレイユは瞳を再び見開くと、すっかり冷めた紅茶を一口啜った。




