第712話 とある女神の昔話(4)
「ああ、だいたいな。確か闇奴を生み出す悪しき者。その名をレイゼロールという。彼女を光の力で浄化しない限り、世界には悲しみが広がり、世界は危険に晒される・・・・・的なやつだったか」
影人は当時の事を思い出す。柱の裏からその説明を聞いていた時、まるで女児向けアニメみたいだなと思ったものだ。何というか、ありきたりなボスの設定というかそれに近いものだと。
「はい。それが私が光導姫たちに説明しているレイゼロールという人物です。そして、その説明は嘘ではありません。レイゼロールは闇奴を生み出し、それを放置すれば世界は混乱するでしょう。なにせ、闇奴は殺せませんからね。そして、レイゼロールの最終の目的は世界を危険に晒す・・・・・」
「・・・・・・・・」
ソレイユの言葉を影人は黙って聞いた。その間に、影人はソレイユが用意してくれていた冷たい緑茶を一口飲む。ここで言葉は挟まない。今の影人はソレイユの話を聞く者。結局なにが言いたいと、話者を急かすようなマネはしない。
「・・・・・・・ですが、私はその情報以上にレイゼロールの事をよく知っています。私はあえて、その事を今まで誰にも話してきませんでした。私と同じ事を知っているのは、ラルバとその他の神々、そして・・・・シオンくらいです。シオンに関しては、一部ではありますが」
告白するように、懺悔するかのように、ソレイユは重い声でそう呟いた。シオン、今日影人が出会った元光導姫にして現在は最上位闇人たる少女。別名、『闇導姫』ダークレイ。どうやらその少女も、今からソレイユが話す事の一部を知っているらしい。影人はダークレイの顔を思い浮かべながら、ソレイユの言葉の続きを待った。
「・・・・・とある女神の話をしましょう。今から数千年前、今より人と神が近かった時代、地上には2柱の神がいました。その神たちは兄と妹の兄妹でした」
静かにソレイユは語り始めた。その声音は何かを懐かしむような、そんな声音に影人には聞こえた。
「その2柱の神の内、兄は成体で自身の権能を問題なく使え、コントロール出来ていました。妹の方はまだ幼体で、兄と同じ権能こそあるものの、まだコントロールは出来ていない状態でした。その神たちは特別で、他の神々とは違い地上でも神の力を扱える存在でした」
「・・・・・・悪い、言葉を挟んじまうが、成体と幼体っていうのは?」
「いえ、構いません。私の説明不足でしたね。成体というのは、私のような見た目の事です。人間の見た目で言えば20歳くらい。幼体というのは、人間の見た目で言えば6歳から10才くらいの見た目の事と想像してください。まあ、神なので実際の年齢はその数十倍ですが、ほとんど人間の大人と子供と変わりませんね」
影人の申し訳なさげな言葉を聞いたソレイユは、軽く首を横に振りながら影人の質問にそう答えた。ソレイユの答えに、影人は「分かった。ありがとよ」と首を縦に振った。




