第710話 とある女神の昔話(2)
「――影人、ご苦労様でした」
「気にすんな、仕事だからな」
影人が転移すると、視界内に桜色の長髪の女性――ソレイユの姿が目に映った。影人はソレイユの労いの言葉にどうでも良さげに返事をした。
影人が転移した先はソレイユがいる事から分かる通り、神界のソレイユのプライベートスペースだった。
「どうぞ掛けてください、影人。いつも通り、テーブルとイス、それにお茶は用意してあります。なにせ、これからする話は長くなる事が予想されますから」
「サンキュー。っと、まだ変身を解除してなかったな。解除」
影人は自分がまだスプリガン形態である事に気づくと、変身を解くキーワードを呟いた。
すると、スプリガンの服装は全て闇色の粒子となって消え、影人の前髪の長さも元に戻った。今まで露出していた顔が、長すぎる前髪に支配される。瞳の虹彩も金から黒へと戻る。
そして、風洛の夏服姿に戻った影人の右手に黒い宝石のついたペンデュラムが出現し、変身解除の全ての工程は終わりを告げた。
「・・・・・やっぱ、こっちの前髪の長さの方が落ち着くな」
スプリガンから帰城影人へと戻った少年は、自分の前髪に軽く触れながら、用意されていたイスへと腰掛けた。
「そうですか? 私だったらそんなに長い前髪は嫌ですけどね。長すぎて鬱陶しくありませんか?」
「別に鬱陶しくはない。もう慣れてるからな」
影人と同じようにイスに腰掛けたソレイユがそんな事を言ってきたので、影人は何でもなさそうにそう言った。伸ばし始めた最初こそは鬱陶しく感じた事もあったが、今ではもうそんな事は気にならなくなっていた。
「まあ、そんな話は置いといてだ。本題に入ろうぜ。聞かせてもらおうじゃねえか。お前の話ってやつを」
「・・・・・・・・・そうですね。それではお話しましょう。これまで私が隠していた全ての事を」
ソレイユは真剣な表情を浮かべそう宣言すると、テーブルに置いてあった紅茶を一口飲んで、息を吐いた。影人にはその所作が緊張しているように見えた。
「・・・・・まずはカケラの事についてお話します。影人、今日あなたが見てレイゼロールが手に入れ吸収した物、あれがカケラです。黒い、黒曜石のような見た目をしているあのカケラこそが、レイゼロールの目的物なのです」
ソレイユはレイゼロールの目的物、黒いカケラの事を影人に教えた。




