第709話 とある女神の昔話(1)
「・・・・・・・・・・・やべえ。橋直すの忘れてた」
颯爽と橋を去り、近くの路地裏に入った影人は自分が崩落させた橋の事を思い出すと、やってしまったという感じで片手で顔を覆った。まずい。このままでは、不法侵入した上にロンドン名所の橋を壊した重犯罪者になってしまう。
「おい、ソレイユ。ちょっとこっそり橋に戻っていいか? 流石に直しとかないと、イギリス国民に呪われちまう気がする」
影人は念話でソレイユに向かってそう語りかけた。こういう所はどこか小心者の影人である。
『それなら心配いりませんよ。各国の政府には、こういった闇奴・闇人絡みの戦闘などで、建造物などに甚大な被害を受けた時に、建造物を修繕できるアイテムを配っていますから。おそらく、今回は英国政府はそれを使用するでしょう』
だが、ソレイユからは影人が思ってもいなかった答えが返ってきた。
「は・・・・・? マジかよ。でも、前にレイゼロールと日本で戦った時は、翌日に修理の工事やってたぞ? テレビで見て、心の中で謝った記憶あるし」
ソレイユの返答を聞いた影人は、少し考え込むようにそう呟いた。レイゼロールが結界を展開して、影人を誘き寄せた最初の戦い。その時のフィールドは大通りの道路で、影人は近くの建物や道路のアスファルトを色々と破壊してしまった。いや、正確に言えばあの時の影人はイヴに体を乗っ取られていたので、影人の意志で破壊したわけではないのだが、結果的にはそうなってしまったのだ。
『それはおそらく、短時間の修理工事で直せる範囲だったからでしょう。一応、そのアイテムは神の力を秘めた超常のアイテムですから、使うのに色々と制約があるんです。例えば、光導姫や守護者、闇奴・闇人が絡む戦いで破損した建造物でないと使用できない、1日、2日で直せるような破損では使用できない、などです。まあ、その他にも色々と細かい制約はあるのですが、日本での場合はそのいずれかの制約に当てはまってしまったのでしょう』
だが今回の橋の破損はかなりの規模なので、そのアイテムを使用する事は可能なはず。ソレイユはそう言葉を付け加えた。
「なるほどな・・・・・・まあ、わかった。それなら安心だ。じゃ、転移を頼むぜ」
ソレイユの説明を聞いて疑問を解消された影人はホッと息を吐き、ソレイユにそう頼んだ。
『わかりました。では、転移を開始します』
ソレイユの声が脳内に響くと、影人の体が光に包まれ始めた。そして数秒後、影人は光の粒子となってロンドンの路地裏から姿を消した。




