第702話 カケラ争奪戦イギリス9(4)
「ははっ、やってくれやがったなスプリガン! さっきの連撃は効いたぜ!」
影人と影人と向かい合っていたレイゼロールが、水音がしてきた方向に視線を向けると、ずぶ濡れの冥が破損した橋上付近に立っていた。
「さあ続きと行こうぜ! まだまだ俺は――!」
冥が身に纏った闇を激しく揺らめかせながら、そう言葉を続けようとした。だが、レイゼロールは何かに気がついたようにこう言葉を割り込ませた。
「っ、待て冥。後ろを見ろ。あれは・・・・・」
「ああ? 後ろ? いったい何だよ」
冥は仕方なしに自分の後ろ――向こう岸の橋の方に視線を向けた。影人もレイゼロールと同じ方を向いていたので、レイゼロールが何を見たのかよく分かった。ちなみにではあるが、影人はちゃんと後方のレイゼロールの事を警戒している。レイゼロールが何かすればいつでも反応できるように。
「ゲホッゲホッ! よ、よう冥・・・・・・・て、てめえは変わらず元気そうだな・・・・」
「そういうてめえは今にもポックリ逝っちまいそうだな、ゾルダート。随分と派手にやられてんじゃねえか」
向こう岸の橋の上に現れたのは、胸部にナイフが刺さっている男だった。気配と冥の言葉、あと血の色からするに、かなり弱っているが最上位闇人だろう。ゾルダートと呼ばれた最上位闇人は、胸部から黒い血を流し、咳き込むと同時に吐血していた。
「へっ、ま、まだ逝きやしねえよ・・・・・そ、それよかレイゼロール様、か、回復をお願い出来ませんかね・・・・・・・・・?」
「回復の力は貴様にやったはずだが・・・・・・・まあいいだろう」
苦しげに笑みを浮かべながらそう言ってきたゾルダートに、レイゼロールはそう言葉を返した。その次の瞬間、レイゼロールの気配が影人の後ろから消え、レイゼロールはゾルダートの横に移動した。先ほどイヴが教えてくれた瞬間移動だろう。
「まずはナイフを引き抜くぞ」
「お、お願いしますよ・・・・・がっ!?」
レイゼロールがゾルダートの心臓に刺さっていたナイフを勢いよく引き抜く。ゾルダートがそのショックから両目を見開く。ナイフが抜かれた瞬間、凄まじい量の黒い血が体外へと流れ出た。
「・・・・・・・・・分かっていると思うが、血の量までは回復できないぞ」
レイゼロールは右手をゾルダートの心臓付近にかざした。右手に闇が集まる。そしてその闇は、ゾルダートの傷口に流れていき、ゾルダートの傷口に纏わりついた。
すると、ゾルダートの傷口とその体内の心臓は綺麗さっぱりに治癒された。
「・・・・・・・」
影人はその光景をただジッと見つめていた。回復の妨害をする事も出来なくはなかったが、妨害の行動にはリスクが高かった。いくら影人といえど、冥とレイゼロールがこれほど近くにいる中で、迂闊には動けないからだ。
「・・・・・・・ふぅー。ありがとうございます。おかげさまで元通りだ。まあ、血はけっこう流しちまったんで、けっこう弱くなっちまってるでしょうが。それで・・・・・・あの黒衣の男が噂のスプリガンですかね? どうやら、俺が足止めしてる間に現れたみたいだ」
レイゼロールから治癒を受けたゾルダートは、いつも通りの口調で礼の言葉を述べると、その視線を影人へと向けた。




