第701話 カケラ争奪戦イギリス9(3)
「なっ!?」
背後から聞こえたレイゼロールの声に、影人は驚きながら振り向こうとするが、振り向こうとする前に影人は首を掴まれた。そして、そのまま地上へと急激に落下させられていく。
「ぐっ・・・・・!?」
「このまま地面にぶつけて貴様の肉体を壊してやろう。例え肉体を硬化させても、タダでは済むまい」
影人の首を後ろから押さえながら地面へと落下するレイゼロールがそう言葉を放つ。どうやら、レイゼロールはこのまま影人を地面に叩きつける気らしい。確かに、これ程の落下速度で硬いコンクリートに叩きつけられれば、レイゼロールの言う通り、体を硬化させたとしてもかなりのダメージを受けるだろう。
「はっ、俺を舐めるな・・・・!」
あと2秒ほどで地面に叩きつけられる。転移は間に合わない。だが、影人は強気にそう言葉を放つ。こういう時に便利な技が1つあるからだ。
地面がすぐそこまで迫る。その時、影人はその技を使った。
「ッ、これは・・・・・・・」
影人の体が陽炎のように揺らめく。そして、影人の体がそのように変化するのと同時に、レイゼロールが掴んでいた首の感触が煙のように消え去った。
そのまま地上へと着地したレイゼロール。着地の寸前で黒翼を大きく羽ばたかせる事によって、レイゼロールはスッと着地した。
一方、陽炎のように揺らめいた影人はそのまま煙のように揺蕩いながら、橋の上に移動した。その場に移動したと同時に、影人の体は実体を得る。
「幻影化・・・・・・ふん、やはり貴様はどこまでも未知数だな」
「・・・・・その言葉、そっくりお前に返すぜ。超スピードでも転移による移動でもない・・・・・・ノーモーションで俺の背後に現れた、お前にな」
幻影化。力を大きく消費するが、自分も使えるこの技よって影人は事なきを得た。だが、レイゼロールが背後に一瞬にして現れたあの技だけは、未だに影人にも分からなかった。
『――別に簡単な話だ。レイゼロールの奴は転移じゃなく瞬間移動したんだよ』
(瞬間移動・・・・・・・・? それ、どういう事だよイヴ)
突如そう言って来たイヴに、影人は内心でついそう聞き返してしまった。
『言葉通りの意味だ。レイゼロールがノーモーションでお前の後ろに出現したのは、瞬間移動だって言ってんだよ。瞬間移動は転移とは違う。転移が数秒の時間を要して、短距離だろうが長距離だろうが移動できるのに対して、瞬間移動は移動する距離こそ短距離に限られるがほとんど0秒でその場に移動できる。まあその無茶なやり方上、転移よりもかなり力を消費するがな』
イヴがいつも通り物知り博士のように影人にそう解説してくれた。瞬間移動。なるほどそういう意味か。
(サンキュー、イヴ。おかげで疑問が解消したぜ。やっぱお前は頼りなる)
『けっ、てめえになんか頼られたくねえぜ』
影人がイヴとそんな会話を交わしていると、影人の後方からザッと派手な水音が聞こえた。




