第694話 カケラ争奪戦イギリス8(1)
「勝手に過ぎる奴め・・・・・・・・」
冥が向こうの橋へ渡り、スプリガンと戦い始めた光景を見ていたレイゼロールはそんな言葉を漏らした。別に冥がスプリガンと戦う事に文句はないが、それでも冥の行動は突然過ぎた。
(・・・・・・まあいい。あの調子の冥に何を言っても無駄だ。それよりも・・・・・・)
レイゼロールは後方を振り返った。本当ならば、冥がスプリガンと戦っている間に、視界の遠くに映っている時計塔を確かめに行きたいところだが、この場にはまだ無視できない人物がいる。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・冥の一撃をまともに受けてもまだ立つか。フェルフィズの大鎌を扱う者よ」
路地の真ん中に立つ黒フードの人物の姿を確認して、レイゼロールはその目を細める。レイゼロールがスプリガンと戦っている間、冥とこの黒フードの人物がどのような戦いを演じていたかは知らない。が、冥が元気にスプリガンと戦っている様子などを見るに、戦いは冥が優位だったのだろうとレイゼロールは適当に思考した。
「・・・・・・正直に言えば、今はスプリガンよりも貴様の方に気を引かれるな。失われし忌み武器をなぜ貴様が持っているのか・・・・その答え、その口から無理にでも聞かせてもらうぞ」
「・・・・・・・・」
レイゼロールのその言葉を受けても、黒フードの人物は何も答えない。ただ、その手に持つ死の大鎌をレイゼロールに向かって構えるのみだ。
「・・・・・・行け、兵どもよ」
レイゼロールは残存している骸骨兵たちにそう号令をかけた。主の号令を受けた骸骨兵たちは、黒フードの人物に向かって突撃を開始した。
「ッ・・・・・!」
剣を振るって来た1体目の骸骨兵に対処すべく、黒フードの人物はその大鎌を振るう。黒フードの人物は体を動かす時に一瞬だけぎこちないような所作だったが、全てを殺す大鎌は見事に骸骨兵を切り裂いた。大鎌に殺された骸骨兵は、塵となって虚空に消えていく。
その後も、骸骨兵たちが2体、3体と黒フードの人物に向かっていくが、全て大鎌の前に屠られていく。
(ふむ・・・・・・・やはり、さすがはフェルフィズの大鎌といったところか。かなり強めに設定してあった骸骨兵たちが一撃で無力化される。あの大鎌の前では全ては紙くずに等しいからな。・・・・だが、先ほどの冥の一撃はかなり効いているな)
骸骨兵たちが次々に虚空に消えていく光景を見ながら、レイゼロールはそう考察した。黒フードの人物の動きのキレは最初よりも、スイスでレイゼロールと交戦した時よりもあきらかに悪い。あの体の動きは痛みに耐えている動きだ。
(という事は、あの黒フードの人物には身体を回復・治癒させるような力はないという事だ。つまり、容易に殺し切れる)
今のところまだ推察でしかないが、ほぼ間違ってはいないだろう。これであの黒フードの人物について、フェルフィズの大鎌を扱う、身体能力は光導姫や守護者と同レベル、特殊な能力はない、また自身のダメージを回復・治癒させる事が出来ないという事が分かった。
ならば、やはり警戒すべきはフェルフィズの大鎌だけだ。




