第692話 カケラ争奪戦イギリス7(3)
「・・・・・・3秒でよかったな」
「眼の強化か・・・・・・」
上から落ちてくるナイフを避けながら、影人はそう言葉を漏らした。そして、影人が凄まじい反応速度でナイフを迎撃していく様を見ていたレイゼロールは、影人が何をしたのかを理解していた。
「まあな。・・・・・・・それじゃ、ナイフを貰った礼だ。俺からはこいつをくれてやるぜ」
影人が冷たい笑みを浮かべると、影人の後ろの空間に、黒い炎、黒い氷、黒い雷が生じた。そして、それらはそれぞれ3体の竜へと姿を変えた。
「「「ギャアアアアアアアアアッ!」」」
「ッ!?」
3体の竜が誕生の産声を上げる。その3体の竜に、レイゼロールは警戒したような表情を浮かべた。
「・・・・・さながら『三態の竜』ってところか・・・・・・・・・・行け」
影人がその竜たちにそう命令すると、その竜たちは鳴き声を上げながらレイゼロールへと向かっていった。
「くっ・・・・・・!」
レイゼロールは黒い翼をはためかせ、顎門を開けながら襲いかかって来る竜たちを回避した。その一瞬、レイゼロールの意識は影人から逸れた。
「はっ・・・・・・」
その瞬間を影人は見逃さなかった。影人は酷薄な笑みを一瞬浮かべると、ある事をした。狙い通りだ。
「ちっ、目障りな竜どもが・・・・・・・・!」
レイゼロールは虚空から巨大な黒腕を複数呼び出し、3体の竜たちを一旦拘束した。そして、意識をスプリガンの方へと戻す。
だが、そこにスプリガンはもういなかった。
「ッ!? 奴はどこに・・・・・!」
レイゼロールがスプリガンの姿を探す。しかし、スプリガンの姿は空中にはどこにも確認出来ない。
「――そろそろ空中戦は飽きたぜ。地上に戻るか、レイゼロール」
「上か・・・・・!」
上空の影に気がついたレイゼロールは上を向いた。すると、そこには闇の渦から出てきたスプリガンがいた。どうやら、レイゼロールの意識が竜たちに向いた一瞬の隙に転移したようだ。
「だから、まずは落ちなきゃな・・・・・・!」
影人はレイゼロールにそう言うと、右足で思い切りレイゼロールを蹴り落とした。一応、蹴りは闇で強化した。無詠唱の方なので、詠唱有りよりかは威力が落ちるが。
「ぐっ・・・・・・・!」
影人の蹴りを咄嗟に両腕を交差させて受け止めたレイゼロールは凄まじい速度で地上へと落下していく。この速度では翼をはためかせても意味はないだらう。
「・・・・・ついでだ、こいつも試してやる。おい、竜ども。力くれてやるから、そんな拘束どうにかしろ」
影人は巨大な黒腕に拘束されている竜たちに力を流し込んだ。3体の竜は影人が生み出した存在だ。ゆえに力の経路自体は見えなくとも繋がっている。影人はその経路を通じて、竜たちに力を与えた。




