第691話 カケラ争奪戦イギリス7(2)
「ちっ、鳥にでも・・・・・いや、さながらカラスか。それにでもなった気かよ」
影人は自身に襲いかかって来た骸骨兵を適当に剣で刻みながら、浮かび上がったレイゼロールに視線を向けた。
(飛ぶね・・・・・・・・まあ、やった事はねえがたぶん出来るだろ)
初めての事は基本的にはイヴにやってもらった方が楽だが、イヴはまだロンドンに来る前のやり取りのせいで機嫌が悪い。なので、素直に影人のお願いを聞いてくれる可能性はかなり低い。ならば、自分でやるしかない。
(レイゼロールみたく翼生やすだけじゃつまらねえ。いや黒翼っていうのは確かにカッコいいが・・・・・被るのはなんか嫌だ)
こんな時だというのに、この頭がどうかしている前髪野郎はそんな事を思った。本当にバカなんじゃないかと思う。
(そうだな。せっかくならそのまま浮くか。身一つで浮くっていうのも、なんかいい感じだしな。んじゃ、イメージは重力からのある程度の解放って感じか)
影人がそうイメージすると、影人の足元に薄い闇が纏わりついた。そしてその闇が足元に纏わりつくと、影人の体は徐々に空中へと浮いていった。
そして、影人はレイゼロールと同じ高さまで上昇すると、そこで上昇することをやめた。
「・・・・・・・・これで満足か?」
「・・・・ふん。いいや、残念だ・・・・!」
レイゼロールは翼をはためかせると、先ほど黒フードの人物にも放った千の闇色のナイフを創造した。
そして、千のナイフは影人に向かって放たれた。
「空中戦か。いいぜ、俺の機動力を試してやる・・・・・!」
影人は放たれたナイフを回避するため、一旦後方へと移動し距離を稼いだ。今の影人は空中を自在に動く事が可能だ。
そして、影人は自分に向かってくるナイフの軌道を軽く見極めると、縦横無尽に宙を移動し千のナイフを躱し続けた。
「・・・・・・・・よく避ける。なら、こうしてやろう」
その光景を見たレイゼロールが右の掌を正面にかざす。すると全てのナイフが影人の方を向き直し、影人を追尾してきた。
「ちっ、ホーミングか・・・・・!」
影人は面倒くさそうにそう呟くと、移動する速度を上げた。
「無駄だ。どこまでも貴様を追い続けるぞ」
レイゼロールは右手を動かしナイフの群れを操作すると、下を除く全方位からナイフで影人を囲んだ。
「切り刻まれろ」
ナイフによる包囲を完成させたレイゼロールは、その右手をグッと握った。するとそれを合図とするように、影人を包囲したナイフが四方八方から発射された。
「残念だが・・・・・そいつは無理だ」
追尾して来るナイフを面倒だと感じていた影人は、ここらでこのナイフを片付けようと両手に闇色の拳銃を創造した。
(――眼の強化。10、いや5秒でいいか)
影人の金の瞳に闇が浮かぶ。途端、視界に映る全ての光景がスローモーションに見える。影人はそのスローモーションに映る世界の中で、両手の拳銃の引き金を引き続け、襲いかかって来る全てのナイフを迎撃していった。
影人にとっては体感では十数秒。自分を包囲していた全ての千のナイフを迎撃した影人は、眼の強化を解除した。
途端、影人の視界の光景が元に戻る。影人によって迎撃された千のナイフは、全て撃ち落とされ地上へと降っていった。




