第690話 カケラ争奪戦イギリス7(1)
(ったく、中々にカオスな状況だな・・・・・・・・)
ゾルダートとメリーたちの戦いが終わる前、ウェストミンスター橋に現れた影人は、闇のモノたちを召喚しながら内心そう呟いた。
正面にはこちらに殺意を向けて来る骸骨兵と、その主たるレイゼロール。橋の手前には冥。そして影人からかなり遠い位置にはなるが、釜臥山で影人に襲いかかって来たあの死神のような人物も、この場にはいる。正体不明の怪人が2人に、最上位闇人1人、それにその闇人を統べる親玉。この状況を混沌と呼ばずして何と呼ぶか。
「・・・・・貴様はいつだって我の邪魔をする。我と同じ闇の力を扱い、我と同レベルの力を持つ異端の怪人。更に未だに貴様の目的もわからないときたものだ。・・・・・・・・いい加減、目的も分からない者に邪魔をされ続けるという、気持ちの悪い状況は終わりにしたいものなのだがな・・・・・!」
レイゼロールの召喚した骸骨兵と、影人の召喚した闇のモノたちが互いを攻撃し合う中、レイゼロールは影人に向かってそんな言葉を吐いて来た。珍しい事に、レイゼロールの表情には怒りや苛立ちといったような感情が表れていた。
「・・・・・・・・・どうした、今日はやけに感情的だな? いつもは人形みてえに無感情って感じの面してんのによ」
影人は闇のモノたちがいる中心からレイゼロールを見つめ、バカにしたようにそう言った。影人の言葉を受けたレイゼロールは、「ふん」とつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「・・・・・・我とて感情は有している。こうも邪魔をしてくれれば、貴様を不快に思う気持ちも強まるというものだ。この気持ちを鎮めるためには・・・・・・・・・貴様を排除する他あるまい・・・・・!」
そうレイゼロールが呟いた瞬間、レイゼロールの姿が突如として消えた。しかし影人には分かっていた。レイゼロールは消えたわけではない。超高速で動いたに過ぎない。
「けっ・・・・・」
影人が面白くなさそうにそう声を漏らした次の瞬間、影人もレイゼロールと同じようにその場から消えた。別段、種はない。いつもの闇による身体能力の強化(今回は単発的な強化)と闇による『加速』の力だ。
レイゼロールと影人が消えた。だが2人は1秒後、今までお互いに対面していた位置の中央辺りに出現し、闇で創造した剣と剣を打ち合わせた。
「お前も芸がないな。また俺と不毛な近接戦をやるつもりか?」
「確かに、我とお前の近接戦は不毛だ。我らは互いに眼を闇で強化し、その反応速度を爆発的に上げられるからな」
影人が剣を打ち合わせながら、レイゼロールにそう問いかける。レイゼロールは影人の言わんとしている事を察し、そう答えを述べる。
「だから今回は違う戦い方で貴様と戦うとしよう。スプリガン、貴様は・・・・・・飛べるか?」
「あ・・・・・?」
レイゼロールは影人にそんな事を聞いてくると、剣を引き影人から一歩距離を取った。
「言葉通りの意味だ。何せ、飛べなければ貴様は一方的に我から攻撃される事になるだろうからな」
レイゼロールは自分に襲いかかって来た闇のモノたちを、見向きもせずにその剣で斬り捨てる。そしてその背中から黒い翼を生やし、レイゼロールは空中へと羽ばたいた。




