第689話 カケラ争奪戦イギリス6(5)
「邪魔したわね。せいぜい、これからも戦い続けるといいわ。あの女神の、憐れな操り人形さん」
そして、その謎の少女はゾルダートが退却していった方向へと歩いていき姿を消した。
「あ、あなたそっちは危険ですわよ!? って聞いていませんし・・・・・・・結局、あの少女はいったい・・・・・」
あの少女の意味深な言動。それに、なぜ人避けの結界が展開されているはずなのに、あの少女はこの場にいたのか。あの少女に関する疑問は尽きない。
「――『貴人』! ソレイユ様のお指示により、駆け付けました! ッ・・・・!? この方は『守護者』ですか!? ひどい傷・・・・・すぐに治療します!」
メリーがそんな事を呟いていると、後方からそんな声が聞こえて来た。見てみると、その少女は包帯が巻かれた杖のような持っていた。言動とその武器からするに、その少女は光導姫だと分かった。その光導姫は血塗れになって倒れているプロトの姿を確認すると、すぐにプロトに駆け寄った。
「ッ! お、お願い致しますわ!」
メリーはプロトを治療するという光導姫に、慌てたようにそう言った。
「はい、任せてください! 癒せ、我が包杖!」
光導姫がそう呟き、プロトを仰向けの体勢に変えた。すると光導姫が持っていた杖に巻きついていた包帯が剥がれていき、プロトに纏わりついていった。
包帯はプロトの負傷した部位、胸部、左脇腹、左腕に重点的に巻かれていく。そして包帯がプロトの全身を巻き終わると、その包帯が暖かな光を宿し発光し始めた。
「プ、プロトは大丈夫ですの!?」
「しょ、正直に言うと分かりません・・・・・・『守護者』はいま死の淵にいます。もちろん治療は開始しましたから、傷は治ってくると思いますが・・・・・・・・ここから意識を取り戻すかどうかは・・・・・・・と、とにかくもう少し様子を見てみましょう!」
心配するメリーに、その光導姫はそう言葉を返した。その光導姫にそう言われたメリーは、言われた通りしばらくプロトを見守った。
「う・・・・・・・・・・・・」
それから10分ほどだろうか。光が宿った包帯に包まれたプロトからそんな声が聞こえて来た。
「ッ!? プ、プロト・・・・・・・ああ、本当によかったですわ・・・・!」
「よ、よかったです・・・・・・・まだ完全に意識が戻るまで時間はかかるでしょうが、驚くべきは『守護者』の耐久力と精神力ですね・・・・」
メリーは胸をなでおろしそう呟いた。プロトを治療していた光導姫も大きく息を吐いた。
「それは当然でしょう。彼は守護者ランキング1位にして、『守護者』の名を与えられた人物ですわよ。――それより、申し訳ありませんがプロトの事を頼みますわ」
メリーは取り敢えずプロトの無事を確認すると、プロトを治療している光導姫にそう言って、地面に転がっていた自分のサーベルと銃を手に取った。
「え? そ、それは分かりましたが・・・・・・き、『貴人』はどちらに・・・・・・?」
メリーからそう頼まれた光導姫はコクリと頷きながらも、不思議そうな顔でそう尋ねてきた。その質問にメリーは真剣な表情でこう答えた。
「私は退却した闇人と、レイゼロールを追いますわ。私たちの任務は元々はレイゼロールを追う事。私たちが戦った闇人も、おそらくはレイゼロールの元に向かったでしょうし。特にあの闇人・・・・・・きっちりと詫び入れてやりますわ」
最後の方だけメリーはドスの効いた声で冷たい笑みを浮かべていたが、それを見た光導姫は「ヒッ・・・・・!」と恐怖したように声を漏らした。
「では、お願いします。ええと、あなたは・・・・・・」
「トリート。それが私の光導姫名です」
「トリートさん。本当にありがとうございましたわ。あなたに心からの感謝を。それでは、失礼します」
メリーは光導姫トリートに優雅に頭を下げると、地面に垂れている黒い血を目印に走り始めた。おそらくプロトが最後にナイフを突き刺した時の傷から流れ出た血だ。ナイフが突き刺さった状態でも、あれだけ深く刺さっていれば、血は流れ出すだろう。
この血痕が、メリーを次なる戦いの場へと導いてくれる。
「待っていなさい闇人、レイゼロール。この私、メリー・クアトルブがあなたたちを浄化してやりますわ・・・・・・!」
こうして、メリーはゾルダートの跡を追ったのだった。




