第688話 カケラ争奪戦イギリス6(4)
「こ、この・・・・ク・・・・クソ・・・・野郎・・・・が・・・・!」
心臓をナイフで貫かれたゾルダートは、ヨロヨロと後退しながらプロトに憎しみを込めた視線を向けた。
「うっ・・・・・! ま、まだ・・・・・・む、向かって・・・・・来る・・・・と、言うなら・・・・・・・・・来いッ!」
血に塗れながら、プロトは闘志尽きぬ目をゾルダートに向ける。ナイフを引き抜く力まではなかったので、ゾルダートの胸にはナイフが刺さったまま。つまり、今のプロトは武器が何もない状態だが、それでもプロトは戦おうとした。
「ゲホッ、ゴホッゴホッ! ふざけ・・・・・やがって・・・・・!」
ゾルダートは口から黒い血を吐きながら、プロトにそう言った。どうやら、このイカれた精神力を持つ守護者はまだ戦う気らしい。
(ちくしょうが・・・・! この状況はマズい・・・・・・! もう回復は使えない。だってのに、また瀕死レベルのダメージだ! さすがの俺もこの状態じゃ戦えねえ・・・・・・・!)
ゾルダートは闇人であるため、この状態でも死ぬという事はない。だが戦闘の続行は不可能だ。
(ちっ、撤退だ! 足止めはもう十分だろ。とりあえず、俺もレイゼロール様の所に向かわねえと・・・・・・!)
一刻も早くこの傷をどうにかしなければならない。闇人も痛みは感じる。ゾルダートは気を失いそうな激痛を感じながら、そう思考した。この傷を修復するには、レイゼロールに治してもらうしかない。
それにこの場に留まるわけにはいかない。ゾルダートは光導姫を殺しきれなかった。今はまだ激しく咳き込み起き上がってこないが、じきに回復するだろう。そうなれば、ゾルダートは今度は間違いなく浄化される。
「ゴホッ・・・・・・! はあ、はあ・・・・・・!」
以上のような理由から、ゾルダートはこの場から撤退しレイゼロールの目的地であるビックベンを目指す事にした。ナイフが胸に刺さったまま、逃げるように歩きながら。
「に・・・・・逃げたか・・・・・・・・よ、よかっ・・・・・」
ゾルダートが撤退した事を確認したプロトは、そう呟こうとして気を失い地面にうつ伏せで倒れた。気を失った事により、プロトの変身は解除された。
「プ・・・・・プロト・・・・! ケホッケホッ!」
うつ伏せに倒れ、地面に血の水溜りをつくっているプロト。ようやく意識がはっきりとしてきたメリーは、ヨロヨロと立ち上がりプロトに近づいた。
「本当に、本当にあなたには助けてもらってばかりですわ・・・・・・待ってください、いま助けを――!」
メリーは気を失っているプロトにそう言うと、先ほどゾルダートに首を掴まれた際に落としたスマホを拾おうとした。だがそんな時、こんな声がメリーの耳に入ってきた。
「――こう言うのは癪だけど、大丈夫よ。あの女神は偽善者だもの。どうせもうすぐ助けをよこして来るわ」
「え・・・・・?」
そう言って現れたのは、紫紺の髪をした少女だった。歳の頃はメリーとあまり変わらないように見える。その突然の謎の少女の出現に、メリーは驚いたような顔を浮かべた。
「・・・・・本当にバカね。こんなになるまで戦って。全くもって・・・・・・・・・憐れだわ」
その少女は倒れているプロトを見て、そんな言葉を呟いた。その言葉を聞いたメリーは、ついカッとなってこう言葉を返した。
「彼への侮辱は許しません事よ! あなたが誰だか知りませんが、部外者が知ったような事を言わないでくださいまし!」
「部外者・・・・・・・ふん。確かにそうね。私はもう部外者。あなたたちに、とやかく言う義理はないわ」
メリーからそう言われた少女は、フッと自虐的な笑みを浮かべる。そして、最後にメリーとプロトを一瞥するとこう言った。




