第686話 カケラ争奪戦イギリス6(2)
「なーに、残しといた奥の手を使ったまでよ。俺は事前にレイゼロール様に1つ能力をもらっててな。その能力が・・・・・回復の力だ」
「ッ!?」
メリーの首を右手で締めながら、ゾルダートが額の傷がなくなった種明かしをした。その言葉を聞いたメリーは驚愕したようにその目を見開いた。
「っ・・・・・・・ク、クアトルブ嬢・・・・・!」
ゾルダートに首を掴まれているメリーの姿を見たプロトは、痛みと苦しみが奔る体で何とか立ち上がろうとした。しかし、もう限界だったのだろう。プロトは立ち上がる事は出来なかった。
「てめえは後だ、守護者のガキ。よくもまあ、まだ意識があるもんだと感心しちまうが・・・・・・そこでこいつが死ぬのを見てるんだな」
「ぐっ・・・・・!?」
ゾルダートは一瞬プロトの方を向いてそう言うと、メリーの首を絞める力を更に強めた。メリーは更に苦しそうにその顔を歪める。今のメリーは武器を持っていないので、反撃する事が出来ない。暴れる事は出来るが、ゾルダートはメリーが暴れても決してこの右手を離さないだろう。
「ああ、暴れんなよ? 暴れりゃ余計に苦しむだけだからな。まあ賢いあんたなら、暴れても意味ないって分かるだろうがよ」
ゾルダートも一応メリーが暴れる可能性を考慮してそう釘を刺した。武器があれば話は違ったのだろうが、いくら光導姫の身体能力を持っているとはいえメリーがこの状態から自力で抜け出す事はほぼ不可能だ。
なぜなら、身体能力で言えば未だに逆境状態であるゾルダートの方が上。更にメリーは女性で、ゾルダートは男性だ。以上の理由から、力はゾルダートの方が圧倒的に上だからだ。
「っと話が逸れちまったな。ええと、回復の力の話までだっけか。まあ、冥土の土産に聞いてけや」
ゾルダートはメリーに冷たい目を向けると、一方的にこう話を続けた。
「俺はあんたに撃たれた瞬間、ストックしてた回復の力を使った。つっても即死級の一撃だ。傷を修復すんのに、残りのほとんどの力を使っちまったがな」
そのため、今のゾルダートの闇の力はすっからかんの状態だ。ゾルダートはこれ以上、回復の力は使えない。そうでなくても、回復の力はただでさえ燃費が悪いのだ。
「まあ、以上が種明かしだ。やっぱ奥の手は最後の最後まで取っとくもんだな。一応あんたを喜ばせといてやると、本当に惜しかったんだぜ? 俺を浄化するのは。たぶん傷が癒てなくて血を流してた状態だったら、俺はあの銃撃で問答無用に浄化されてた。それこそ回復の力を使う間も無くな」
そう。ゾルダートがまだ生きているのは、本当に紙一重、偶然と偶然が重なった奇跡のような出来事だ。傷が未だに塞がっていなければ、あと数滴血を流していればゾルダートは浄化されていた。黒い血は闇人の力の源。流せば流すだけ、闇人は弱体化する事を余儀なくされる。そして、弱体化していれば当然の事ながら浄化されやすくなる。
加えて、メリーの能力は傷を負わせれば更に弱体化させるというものだった。メリーにつけられた傷はもう塞がったため、ゾルダートはその能力の対象外となったが、やはり数ミリの傷でも残っていれば、ゾルダートは浄化されていただろう。




