第685話 カケラ争奪戦イギリス6(1)
「ち・・・・・くしょう・・・・・」
額に強力な浄化の力を宿した弾丸を受けたゾルダートは、そう言葉を漏らしドサリと仰向けに倒れた。額から黒い血を流しながら。その際、プロトもまだかろうじて意識があったのだろう。ゾルダートが倒れると同時に両腕で握っていたゾルダートの右腕を離した。
「プロトッ!」
ゾルダートが倒れたのを確認したメリーは、両手に持っていた武器を手放しプロトに駆け寄った。
「ゲホッゲホッ・・・・・・し、信じていたよ・・・・クアトルブ嬢・・・・・き、君ならやってくれるってね・・・・・」
プロトは弱りきったような声で、メリーに微笑みかけた。プロトはメリーを不安にさせないために笑みを浮かべているのだろうが、メリーからしてみればその薄弱とした笑みは、今際の際のもののように思えた。
「ええ、ええ。私はやる時はやる女ですわ。それよりも一刻も早くあなたを治療いたしませんと!」
倒れたゾルダートに背を向けながら、メリーは血塗れのプロトを抱えた。その顔は焦りや不安といった感情が全面に押し出されていた。
「1番はソレイユ様が回復の力を扱える光導姫をこの場に派遣してくださる事ですが・・・・・」
メリーは心配するような顔でそう呟いた。プロトはいま胸部にナイフが突き刺さった状態で、左腕と左脇腹にも刺し傷がある。脇腹の方は胸部と同じくらいの傷の深さだ。正直に言って、今のプロトはいつ死んでもおかしくはない。
「・・・・待っていられませんわね。プロト、安心してくださいまし。いま私が車を手配しますわ。それで病院に向けて爆走しま――」
メリーがワンピースのポケットからスマホを取り出し、自分の家の者に電話しようとしたその時、
「――危ねえ危ねえ。あとほんのちょっとで逝くところだったぜ」
後ろからそんな声が聞こえて来た。
「え・・・・・・・・・・?」
聞こえるはずのない声を聞いたメリーは、呆然とした顔で反射的に後ろを振り返った。
そしてメリーが振り返った瞬間、メリーの首を無骨な男の手が掴んだ。
「かはっ・・・・・!?」
首を締め上げられたメリーは、苦悶の表情を浮かべ肺から全ての空気を強制的に排出させられた。
メリーがその視線を何とか男の顔に向ける。すると案の定、その男は――
「よう、勝ったと思ったかよ?」
「あ、あなた・・・・・・・なぜ・・・・・・?」
いま額を撃ち抜き浄化したはずの闇人、ゾルダートであった。額を撃ち抜いたはずなのに、なぜかゾルダートの額は何事もなかったかのように元通りになっていた。




