第684話 カケラ争奪戦イギリス5(5)
「なっ!?」
初めてゾルダートの顔に驚愕の色が浮かんだ。今の言葉とこの動き。弱体化した体で反射でこれほど素早く動く事は出来ないはずだ。つまり、この守護者はゾルダートの思考を予測し――いや、違う。ゾルダートがナイフの軌道を変えたのは、守護者の剣の位置のせいだ。つまり、ゾルダートはこの守護者に思考を誘導されたのだ。
「だが関係ねえ! そのまま力づくでぶっ刺してやる!」
一瞬驚いてしまったゾルダートだったが、すぐさま思考を切り替えナイフに力を込める。プロトは弱体化している上に怪我人だ。力は当然ゾルダートに分がある。ならば、このままナイフを押し込んでしまえばいい。
「ふっ、大丈夫だよ。元から受けるつもりだからね・・・・・・!」
「あ・・・・・・?」
しかし、またしてもプロトはゾルダートの行動を予測したように笑ったのだった。ゾルダートはプロトが何を言っているのか理解出来なかった。
ナイフがプロトの体に向かって迫る。弱体化し怪我によって満足な力を出せないプロトに、その一撃を止める力は今はもうない。
だが、それでもほんの少しナイフの軌道を変えてやる事は出来る。プロトは両手に力を込めて、ゾルダートの右腕の軌道を、ほんの少しだけ変えさせた。
その結果、ナイフはプロトの心臓の位置から少しズレた右斜め下あたりの胸部に突き刺さった。
「ッ! てめえ・・・・・最初っからこうするつもりだったのか!?」
「ぐっ・・・・・!? ご、ご明察だよ・・・・・!」
苦悶の表情を浮かべ、更に血を流したプロトはそれでも何とか笑みを浮かべる。
急所を外して、ナイフを自分の体で受け止める。弱体化したプロトが、ゾルダートの一撃を受け止めるためにはこれしか方法がなかった。
「チッ、イカレ野郎が! さっさと俺の手を離しやがれッ!」
「そ、それは、聞けないな・・・・・・・・!」
ゾルダートはナイフをプロトから引き抜こうとするが、プロトは両腕でしっかりとゾルダートの右手を押さえているので、ゾルダートはその場から動けなかった。死に損ないで弱体化しているというのに、ゾルダートの腕を引く力は凄まじく強い。
「ク、クアトルブ嬢・・・・・・・すまない、後は・・・・・」
「――ええ、任せてくださいな」
プロト最後にそう言葉を絞り出すと、ガクリとその首を落とした。そして、その声に応えるように少女の声が響いた。
その少女、メリー・クアトルブは首を落としたプロトの後ろからその姿を覗かせ、左手の銃をゾルダートの顔に向けていた。
「見事ですわ、プロト。私が持てる全ての感謝と称賛をあなたに。そして責任を持って・・・・・・最後は私が決めますわッ!」
フリントロック式の古式な銃の銃口に、光が渦巻いていく。これから放つのは、メリーの通常形態での最大浄化技の1つだ。
「駆けろよ嵐、穿てよ弱み。我は狩る者なり。――|淑女の引き金はその一度のみ《ショット・ザ・エレガンス》」
「クソがッ・・・・!」
ゾルダートは首を逸らしてなんとかその一撃を避けようとするが、その前にメリーは決然とした表情で引き金を引いていた。
そして次の瞬間、ゾルダートの額を1発の銃弾が貫いた。




