第683話 カケラ争奪戦イギリス5(4)
「殺めるぜェ!」
プロトとメリーが正面に視線を向けると、ゾルダートが右手にナイフを逆手に構えながら、足を踏み込もうとしていた。
そして次の瞬間、ゾルダートは凄まじいスピードでメリーとプロトの方にその殺意をぶつけて来た。体勢を崩し弱体化している敵に向かって、自身の利き手による最速の一撃。更には、先ほど右手に持っていた拳銃を自ら放棄した事により、ナイフ以外全ての武装がなくなったゾルダート自身のスピードも、これまでで1番速くなっていた。
明らかな止めの一撃。ゾルダートはこの一撃でメリーとプロトを殺し、勝負を決めるつもりだった。
「くっ、そっちがその気なら――!」
メリーがふらついた足取りでゾルダートを迎撃しようとサーベルと銃を構えると、隣のプロトがポンとメリーの肩に手を置いて来た。
「クアトルブ嬢。僕があの一撃を受け止める。だから、君はその瞬間に反撃してくれ。以上だ」
プロトは手早くそう言うと、メリーの前に立った。
「は!? あなたそんな体で何を言って――」
メリーはつい反射的にプロトに拒絶の言葉を述べようとした。今の負傷し弱体化しているプロトが、一体どのようにして止めの一撃を受け止めるというのか。メリーにはそんな事は到底不可能な事のように思えた。
だが、
「信じてくれ」
プロトはメリーに背を向けながら、ただ一言そう言った。
「ッ・・・・・・わかりましたわ!」
その背中に、守護者としての誇りと矜持を感じたメリーはプロトを信じそう言葉を返していた。
「はっ、くたばれよガキィ!」
前に出て来たプロトに殺意溢れる言葉を吐きながら、ゾルダートは右手のナイフを振るった。ナイフに付着した血が真っ赤なラインを描く。それは止めの一撃に相応しい、まさしく必殺の一撃だった。
「やってみせる・・・・・!」
プロトは予めナイフの軌道を予測して、自身の左半身に右手で剣を置いていた。ちょうど剣を下に向けるような形でだ。弱体化したプロトでは、ゾルダートの最速の一撃には反応できない。それは一種の賭けでもあった。
(はっ、バカが! 反応できないって言ってるようなもんだぜ! てめえがそうしてくるってなら、こっちはやり方を変えるだけだッ!)
どうやらこの守護者はゾルダートの一撃を剣で受け止めるつもりのようだが、ゾルダートは内心そう嘲ると振ったナイフの位置を調整した。
その結果、ナイフはプロトの剣のギリギリ手前を振り切る。そして、ゾルダートはそのままナイフの持ち手の尻の部分に左手を添え、プロトの心臓目掛けてナイフを突き刺そうとした。
「ッ!?」
「死ね!」
まさか、ゾルダートが突きに切り替えてくると思わなかったのか、プロトが驚愕したようにその翡翠色の目を見開く。ゾルダートは殺せる確信を以って、邪悪に笑った。数秒後にはこの少年は死ぬ。
だが、
「――やっぱりそう来るか」
プロトそう言って笑みを浮かべた。そして、左手でゾルダートの右手を掴み、右手に握っていた剣を手放しその右手でもゾルダートの右手を掴んだ。




