第680話 カケラ争奪戦イギリス5(1)
「はははっ! よく耐えるな! さっさとくたばっちまった方がきっと楽だぜ! 特に守護者サンよぉ!」
「余計なお世話だよ・・・・・・・!」
高笑いしながら拳銃を乱射するゾルダートに、名指しを受けたプロトは少し苦しげにそう言葉を返した。左腕と左脇腹の刺し傷からは未だに血が流れ続けている。それがプロトの苦しげな声の理由だった。
「プロト! 一旦あの車の裏に退避しますわよ! 少し共有したい情報もありますからッ!」
「ッ・・・・・分かった。たぶん、僕も同じ事を考えてるよ」
メリーが自分たちの後方にあった青い無人の中型車を指さす。銃弾から身を守るという事もあるのだろうが、本命は後者の情報を共有したいという箇所だろう。要は今の銃弾を忙しなく避けている状況では、話し合う事が出来ないのだ。
「ッ、そうですの。なら、話はすぐに終われそうですわねッ!」
プロトの返事を聞いたメリーは軽く笑いながら、ゾルダートに向かって何発か銃弾を発砲した。ゾルダートは「おっと」と戯けた感じで、その銃弾を全て回避した。その瞬間に、メリーとプロトは後ろの車の裏側に身を隠した。
「プロト、端的に言いますわ。私は、いえおそらく私たちですわね。私たちは――」
「――弱体化している、だね」
メリーの言葉を先読みしていたかのように、プロトはそんな言葉を発した。
「ええ、間違いないですわ。やはり気づいていましたか」
メリーはプロトの言葉に頷くと、早口でこう言葉を続けた。
「先ほどから私は動きや反応が少し低下しています。契機は私が足に傷を負った時でしょう。そして、そう考えればこの現象を私はよく知っていますわ」
「君の能力だね、クアトルブ嬢。君の能力は武器によってダメージを与えた相手を、そのダメージの度合いに応じて弱体化させるものだ。そして、君はあの闇人の銃弾によって傷を負わされ、僕はナイフによって結構なダメージを受けた。正直、身体能力とか反応速度とか、僕はかなり低下していると思うよ」
プロトはそう言葉を紡ぎながら、自身の体を見つめた。左腕はそれ程でもないが、左脇腹の刺し傷はかなりのダメージだ。自分たちにいま起きている現象が、メリーの能力と同じものだと仮定した場合、今のプロトは一般人より少し強い程度ではないだろうか。
「プロト。結論を急ぎますが、考えられるにあの闇人の能力は――」
メリーがプロトにそう言葉を述べようとすると、何かがカランと地面に落ちたような音が聞こえた。メリーとプロトがその音のした場所、車の下辺りを見ると、そこにはパイナップルに似た形の手の平サイズの何かがあった。
そう。その何かは手榴弾であった。
「「ッ!?」」
それを見たプロトとメリーは反射的に、車から離れるように転がった。
次の瞬間、バンッとした音が聞こえ車が爆発した。爆風と車のパーツが四方に飛んだ。




