第68話 対決、レイゼロール中(2)
(・・・・・・どういうことだ?)
レイゼロールは剣を振るいながら、その胸中でこの不自然な事態に疑問を抱いていた。
そもそも、まだ《《スプリガンが生きている》》という事がおかしいのだ。
フェリートを退かせたということから、尋常ではない実力者ということは分かっていた。ゆえに、レイゼロールはこの戦いに手を抜いてはいない。
そのためスプリガンをレイゼロールはすぐに殺せると考えていた。いくら自分が《《弱体化》》したとはいえ、自分の力は――の力だ。たかだか、生物1体を殺すのに時間はかからないはずだった。
だが、スプリガンはまだ生きている。そして闇で強化した自分の攻撃を受け流し、避けている。
(よほど眼が良いのだな。それに我の攻撃に反応する速度もそこらの光導姫・守護者とは一線を画している)
スプリガンがレイゼロールの攻撃のほんのわずかな合間を縫って、反撃の刃を返してくる。レイゼロールはその攻撃を紙一重で避ける。
レイゼロールは避ける動作とほぼノーモーションでスプリガンに剣による突きを放つ。しかし、それすらもスプリガンは反応してみせ、ギリギリでその攻撃を回避した。
(・・・・・・やはりこいつは危険だ。目的も何も分からないが、放っておけば脅威となる)
レイゼロールは左手にもう1つ闇で出来た剣を出現させる。双剣となったレイゼロールは更に攻撃力を上げ、スプリガンに攻め立てる。
「ちっ! 闇の剣よっ!」
その怒濤の攻めに対応するため、影人も左手に剣を出現させる。
双剣対双剣。2人の剣戟は更に複雑に加熱する。
「・・・・・・かかし、君あの攻防が見えるかい?」
「さっぱりだ。あの2人、人外もいいところだな・・・・・・」
スプリガンとレイゼロールの近接戦を見ていたアカツキとかかしは、半ば呆れたように、半ば畏怖の感情を感じさせる声音でそう言った。
(ああ、遠いなぁ・・・・・・)
明夜は、いつかスプリガンを助けられるくらい強くなろうと言った。陽華も明夜と同じ気持ちだが、今のスプリガンと陽華では「強さ」というステージでは全く違う場所にいる。その差は果てしなく開いている。
(あなたのことが知りたい。あなたと話したい。あなたと共に戦いたい。・・・・・いつかあなたと同じ場所まで行けば、あなたのことが分かるのかな?)
ギュウと胸を押さえ、陽華は今も戦っているスプリガンの背中に様々な感情の入り交じった視線を向ける。
見守るだけの自分が嫌になる。だが、それが今の自分の立場だ。光導姫とは名ばかりで、これでは守られるだけの一般人と何も変わらない。
そんなことは分かっている。今の自分なら仕方ないと心の中では分かっているはいるのだが、なかなか感情はそれを納得しない。
「・・・・・・頑張れ、スプリガン」
スプリガンに守られている自分からすれば、それは無責任な言葉だ。そのことを分かっていながらも、陽華はその言葉を言わずにはいられなかった。




