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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第679話 カケラ争奪戦イギリス4(4)

「はっ、てめえが俺を心配? いらねえよ、気持ち悪りぃ」

「・・・・・あくまで戦力としての心配だバカ者が。お前のような最上位闇人を、今ここで失うわけにはいかないというだけだ」

 ケッと言葉を吐き捨てた冥に、レイゼロールはそう言葉を付け加えた。言葉だけ聞くと何だかツンデレっぽいが、レイゼロールはツンデレではないので(おそらくは)きっと言葉通りの意味だろう。

「ならば、我は時計塔を目指すとしよう。しくじるなよ、冥。1度でもしくじれば死ぬぞ」

「アホか。それが戦いだろうが」

「・・・・・・・・確かにそうだな」

 当たり前といった感じのニュアンスの冥の反応に、レイゼロールはそう言葉を呟くとビックベンを目指すべく走った。現在は身体能力を闇で常態的に強化しているので、その速度は凄まじい。

 レイゼロールはその凄まじい速度のまま、ビックベンの袂のウェストミンスター橋に足を踏み入れた。ビックベンがあるのはウェストミンスター橋の袂なので、ビックベンまでは本当にあと少しだ。

 

 しかし、レイゼロールがそのままビックベンに辿り着く事はなかった。


「ッ・・・・・・!?」

 レイゼロールが橋に足を踏み入れたその時、橋のちょうど中央に闇の渦のようなものが出現した。レイゼロールは思わず立ち止まる。

 そして、その渦の中から1人の男が現れた。

「・・・・・・・・ロンドン観光にでも来たか、レイゼロール?」

「・・・・・・意外だな、貴様が軽口を叩けるとは。やはり現れたか・・・・スプリガン」

 渦の中から現れた黒衣の男――スプリガンの言葉に、レイゼロールは忌々しげにそのアイスブルーの瞳を細めた。

「ん? ありゃあ・・・・・・・ははっ、はははははははははははははははっ! スプリガンじゃねえか! 野郎来やがったか!」

 吹き飛ばした黒フードの人物に意識を向けていた冥だったが、冥は橋の上にスプリガンが出現していた事に気がついた。冥は橋の方に体を向けると嬉しそうに笑った。

「・・・・・!」

 冥の強烈な一撃をもらい吹き飛ばされていた黒フードの人物も、冥の声によってスプリガンが出現した事に気がついた。黒フードの人物は激しく痛む体を左手で押さえながら、鎌を杖代わりにして何とか立ち上がると、そのフードの下の目を遠く離れた橋の上にいるスプリガンに向けた。

「・・・・・・・・どけ、スプリガン。貴様は邪魔だ」

「・・・・・拒否するぜ。俺は俺の目的を果たすだけだ」

 レイゼロールが殺意を滲ませながらスプリガンにそう言った。しかし、スプリガンは拒絶の言葉を返した。

「ああ、そうだろうな。貴様はそう言うと思っていた。ならば・・・・・・・・・押し通る」

 レイゼロールの言葉に呼応するかのように、地面から闇色の骸骨兵が複数体出現した。カタカタと歯を鳴らしながら、骸骨兵たちはスプリガンに各々の武器を向ける。

「・・・・・押し通ってみろよ」

 スプリガンは左手で帽子を軽く押さえながら、そう呟いた。そして、そのスプリガンの呟きに呼応するかのように、地面から、虚空から、闇色のモノたちが出現した。それは例えば、剣を携えた闇の騎士であったり、闇色の鳥、異形の怪物であったりと様々だ。それらの闇のモノたちは、鳴き声や武器の音を世界に響かせた。

 美しいウェストミンスター橋に、怪物や化け物たちがひしめく。その怪物や化け物の中心にいるのは、その怪物や化け物以上の力を持つ人型の者たち。

「・・・・・・・行け」

「・・・・・・・やれ」

 レイゼロールが骸骨兵たちに命令を下す。スプリガンはも自分が召喚した闇のモノたちに命令した。

 そして、それぞれの主人から命令された骸骨兵と闇のモノたちは突撃を開始した。














「くそっ、あの男速すぎなのよ。結局、どこに行ったか見失っちゃったし・・・・・・・」

 スプリガンがウェストミンスター橋に現れた時と同じくして、ロンドンの路地にそんな声が響いた。紫紺の髪の紫がかった黒い瞳の少女だ。スプリガンとぶつかって以来、コソコソとスプリガンの跡をつけていた少女だったが、どうやらそのスプリガンを見失っていたようだった。

「どうするか・・・・・・・このままあの男を捜す? このロンドン中を? 正直、現実的じゃないわ。それか・・・・・・」

 少女が言葉に出しながら思考を整理する。その間も、謎の少女はロンドンの街を当てもなく歩き回った。

「ん・・・・・? なにこの音・・・・・・・?」

 5分くらいだろうか。少女が思考しながら街を歩き回っていると、どこからか激しい音が聞こえて来た。

「物騒な音・・・・・・こっちからね」

 少女は聞こえて来た音にそう感想を漏らすと、音のする方に向かって歩き始めた。

「――ははははははっ! そらそらそらッ!」

「ちっ、バカスカバカスカと! プロト! あいつの弾が切れたら突っ込みますわよ!」

「了解したよ、クアトルブ嬢・・・・・!」

 少女が建物の陰から顔を覗かせると、ロンドンの路地の中央で拳銃を撃っている1人の男と、その銃弾を回避している少女と少年の姿が見えた。少女は右手にサーベルと左手に古式な銃を持っている。少年の方は右手に片手剣を携えている事から、その場にいる3人が全員ただの一般人でないという事が容易にわかる。どうやら、少女が聞いたのはこの3人が戦う戦闘音だったようだ。

「ああ・・・・・・・・・()()()()。そういう事ね。あの2人、光導姫と守護者か。で、あの男は・・・・・・・・って、あいつ何か見覚えがあるわね。ええと確かどっかで・・・・・」

 少女はその光景の意味を、彼・彼女らが何者であるのかを知っていた。そして拳銃を撃っている男を見て、何かを思い出そうとした。

「あ、思い出した。あいつの名前、確かゾルダートだったわね。胸糞悪いクズ野郎の闇人・・・・・」

 そして、その少女はゾルダートの事を思い出し、ポツリとそう呟いたのだった。

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