第678話 カケラ争奪戦イギリス4(3)
「ッ・・・・・」
「蹴りに武を感じねえ。そんな温い蹴りじゃ俺には通用しないぜ」
冥にそう言われた黒フードの人物は上段から鎌を振るうが、それも冥に紙一重で避けられてしまった。それから黒フードの人物は2度3度とその大鎌を振るったが、結果は変わらなかった。
(鎌の扱いは達人級とまでは言えねえが上級レベル。体捌きは戦い慣れてる事が分かる。身体能力はまあレイゼロールも言ってたが、光導姫と守護者クラスだな。後は当たれば死ぬこの反則級の大鎌。・・・・・普通に言えばこいつは強い。だがまあ・・・・・・・・・そんだけだ)
当たれば必死の攻撃を捌きながら冥は内心そう呟く。黒フードの人物の強さの最も大きな要因は、この大鎌。つまり外因的なものだ。
(別にそれが本当の強さじゃねえとは言わねえ。どんなものでも、強さは強さだ)
冥は黒フードの人物の強さを肯定する。黒フードの人物は、どんな人物でも殺せる力を持っている。それは格上でも格下だろうと全員だ。それは明確な強み。全ての者に平等に訪れる脅威。それは冥や後ろにいるレイゼロールとて例外ではない。
「だが・・・・・・てめえじゃ俺には勝てねえよ」
冥は冷静に黒フードの人物に向かってそう言うと、右の拳を縦に構え――いわゆる縦拳――黒フードの人物の右腿を打ち抜いた。
「ッ・・・・・・!?」
右腿を冥の拳に打ち抜かれた黒フードの人物は、その痛みと衝撃によって一瞬右腿が麻痺した。その一瞬の間に冥は黒フードの人物の背後に回り込む。
「おい、レイゼロール。避けろよ」
「・・・・・誰に言っている」
冥が右手を再び掌底の形にしながら、レイゼロールに向かってそう忠告した。レイゼロールは冥の忠告にそう言葉を返すと、一歩左に自分の立ち位置をずらした。
「へっ、もちろんてめえにだよ」
「・・・・・!」
冥が軽く笑みを浮かべそう言っている間に、黒フードの人物は反転してその勢いをつけたまま、冥に大鎌を振るってきた。右斜めからの一撃だ。
「今度は外さねえ。―― 黒勁」
しかし、冥はその一撃よりも速く黒フードの人物の懐に潜り込むと、黒フードの人物の胴体の中心――ちょうど胸部と腹部の間あたり――に闇を纏わせた右手を当てた。
そして次の瞬間、冥は思い切りその右手を押し込んだ。
「がっ・・・・!?」
冥の渾身の掌底を受けた黒フードの人物は、自分の肋骨の折れる音を聞きながら、数十メートルほど吹っ飛んだ。
「あー、レイゼロール。お前さっさとあの時計塔行って探し物があるか確認してこい。さっきも言ったがこの黒フードは俺1人でやる。つーか、俺1人で十分だ」
右手を軽く振りながら、冥はレイゼロールにそう言葉を述べた。冥のその言葉は単なる気まぐれだ。理由をつけようとすると、黒フードが時計塔のある位置とは真逆の位置に吹き飛んだ事、単純にレイゼロールに邪魔されたくない事などが起因に挙げられるくらいか。
「・・・・・・・・そうだな。今の戦いを見ていた限り、お前に心配をかける必要はなさそうだ」
冥が黒フードの人物を圧倒していた光景を見ていたレイゼロールは、冥のその提案に頷いた。




