第677話 カケラ争奪戦イギリス4(2)
「そらよッ!」
冥は右足で思いきり地面を踏みつけた。いわゆる震脚というやつだ。その衝撃で、コンクリートの地面が破砕される。
「黒勁!」
震脚によって得たエネルギーを、冥は右手に闇を集めた掌底への力へと変えた。冥のその一撃は、黒フードの人物の顔面へと放たれた。
「・・・・・!」
黒フードの人物はそれだけは食らってはまずいと悟ったのか、冥の掌底を首を逸らして全力で回避した。途端、空気が軋むような音が黒フードの人物の耳の近くで響いた。
「へえ、避けるか。反応速度はまあまあだな」
掌底を避けた黒フードにそう呟きつつも、冥は左足で隙ができた黒フードを蹴飛ばした。
「ぐっ・・・・・・・!?」
冥に蹴り飛ばされた黒フードは苦悶の声を漏らし、路地に面していた建物に激突した。低い声。ローブから覗いていた手などからも予想はついていたが、黒フードの人物はやはり男のようだ。
「・・・・・・・ふん」
黒フードが建物に激突したタイミングで、今まで静観していたレイゼロールが周囲に数百かそれ以上の闇色のナイフを創造した。その正確な数は、レイゼロールが適当に設定した1000本だ。
そして、その1000本のナイフは黒フードの人物に向かって放たれた。
「・・・・・!」
黒フードの人物はそのナイフの嵐が自身に向かって放たれたのを見ると、すぐさま立ち上がりその大鎌を両手で握りそれを縦に構えた。刃の腹をナイフに向けた形でだ。
黒フードの人物はおもむろに、その大鎌を両手で回し始めた。回転数は一気に増していき、黒フードの正面に旋風を起こす。
ナイフを弾く程の旋風ではないが、黒フードに向かって放たれたナイフは旋回している大鎌に弾かれた。
「おー、器用なもんだ」
その光景を見ていた冥は大道芸を見るような気安さでそう呟いた。どうやら、鎌の扱いは中々のものらしい。
「・・・・・・」
そして、全てのナイフを弾き終えた黒フードの人物は鎌の旋回を止め、再びレイゼロールと冥に向かって距離を詰めて来た。
「ははっ、そう来なくっちゃな! おいレイゼロール、お前は手出すな! 俺1人でやる! 手出したら殺すぞ!」
「・・・・・・・相変わらず勝手な奴だな、お前は」
冥は嬉々とした様子でそう言うと、黒フードの人物を迎撃すべくレイゼロールの前に立った。レイゼロールはそんな冥に少し呆れたような表情を浮かべた。冥が意図した形ではないが、それはレイゼロールを守るような立ち位置だ。
黒フードの人物が左逆袈裟から掬い上げるように大鎌を振るった。冥はその鎌の軌道を見極め、紙一重で避ける。
だが、黒フードの人物は冥が回避する事を予想していたのか、今度は右の前蹴りを冥に放ってきた。
「へえ蹴ってくるか。だけどまあ――甘いぜ」
一瞬、少しだけ驚いたような表情を冥は浮かべた。武器を持った人物は基本的にはその武器しか使わない。それが当たれば一撃で相手を殺せるような強力な武器なら尚更そうだ。しかし、黒フードは先ほどの攻防から学習したのか蹴りを入れて来た。冥はそこは評価した。
黒フードの蹴りは確かに速い。おそらく身体能力から来るものだろう。しかし、冥は格闘戦の達人だ。一目でその蹴りがただの速いだけの蹴りと見抜くと、右手でその蹴りを弾いた。




