第673話 カケラ争奪戦イギリス3(3)
(速い・・・・・!?)
プロトは咄嗟に左手でゾルダートの蹴りをガードしようとした。そしてプロトのその動きを見たゾルダートはニヤリと笑みを浮かべ、靴の内側にある小さなスイッチを左足の親指で押した。
するとゾルダートの靴、その踵から短いナイフが飛び出た。ゾルダートの蹴りを左腕で受け止めてしまったプロトは、前腕部にそのナイフが刺さってしまった。
「ッ!? 隠しナイフか・・・・・!」
「ははっ、一撃もらいィ!」
プロトは左腕に鋭い痛みが走ったのを感じた。ゾルダートはプロトにダメージを与えた事を確認すると、もう一度左の靴内部のスイッチを押して短い刃を引っ込めた。途端、プロトのフロッグコートが赤く染まった。
「プロト!? くっ、調子に乗って!」
プロトが怪我をしたのを見たメリーは、その瞳に怒りを宿しサーベルを振ろうとした。ゾルダートはメリーのサーベルを直接手で握り、中々に深い傷を右手に負った。ならば、先ほどよりも更に弱体化しているはずだ。
「っ!?」
しかしメリーはその時、自分の体にある違和感を覚えた。それは、先ほどよりも少し体が重くなったような、サーベルを振る剣の速度が遅くなったようなそんな感覚であった。
(何ですのこの感じは・・・・・・!? まるで、私が弱体化したような・・・・・・・)
メリーが突如自分を襲った違和感に戸惑う中、ゾルダートが邪悪な笑みを浮かべた。
「ははははッ! 何だよその剣は!? 鈍いなぁおい!」
ゾルダートは余裕といった感じでメリーのサーベルを回避すると、左手のナイフをメリーの体に突き刺そうとした。弱体化しているはずだというのに、凄まじい速さだ。
「死ねよッ!」
(避けられない・・・・・・!)
ゾルダートの攻撃に反応しようとしたメリーだが、なぜか反応が一瞬遅れてしまった。そしてその一瞬の差が、回避不能に繋がった。
命を奪わんとする凶刃がメリーの胸の中央、心臓の位置に後少しで届くといったところで、ゾルダートは自分が急に後ろに引かれる感覚に襲われた。
「やらせるかッ!」
メリーの心臓がナイフで貫かれる事はなかった。そのギリギリのところで、プロトが負傷した左腕でゾルダートのジャケットを掴んだからだ。そしてプロトは渾身の力を込めて、ゾルダートを引いた。痛む腕に顔を少し顰めながら。
「ああん? てめえ、まだそんな力と反応速度があったのか。お前にも傷負わせてやったってのに」
プロトに服を引かれたゾルダートは疑問を覚えたような顔を浮かべた。この守護者は、今は弱体化しているはずだ。それなのに、この膂力と咄嗟の反応速度は中々どうして凄まじい。
「じゃあ・・・・・またてめえを痛みつけてやるよ」
このままでは10メートル程は飛ばされるだろうと感じたゾルダートは、一瞬表情を消して冷たくそう言うと、左手に持っていたナイフをプロトの左の脇腹に突き刺した。




