第672話 カケラ争奪戦イギリス3(2)
「クアトルブ嬢! このまま挟み撃ちに!」
「分かりましたわ!」
だが、こちら側にとってチャンスである事は間違いない。プロトはメリーに向かって少し大きな声でそう言った。メリーもプロトの言葉に頷く。
(それに先ほどの軽やかな回避の所作も気になる。クアトルブ嬢の能力の効果で、この闇人は身体能力や全ての能力が弱体化しているはずだ。なのに、あの身のこなしは少しおかしい・・・・・・)
プロトはゾルダートの背中を追いながら更に思考する。それはメリーが抱いた疑問と同じものだ。
「くくっ、2対1の状況でこのパターンはほぼ詰みの絶体絶命だが・・・・・・・・今の俺ならこのパターンはめっけもんだぜ!」
笑う、笑う。前方にはメリーが、後方からはプロトが追って来ている状況だというのに、戦いが愛しくてたまらない狂人にして闇人は心の底から楽しげに笑っていた。そのゾルダートの笑いに影響されるように、ゾルダートが纏う闇も更に激しく揺らめく。
「今度こそ派手に斬り裂いてやりますわッ!」
「後ろからというのはあまり好ましくはないけど・・・・・・・!」
メリーが右手のサーベルを真一文字に振るい、それと同じタイミングでゾルダートに追いついたプロトが、その背に向かって片手剣を左袈裟に振るった。完璧に近い同タイミングだ。弱体化しているはずのゾルダートには、この攻撃をどうこうする事は出来ないはずだった。
本来ならば。
「遅せェ!」
ゾルダートは右手の銃を地面に落とすと、右手を開いた。次の瞬間、ゾルダートの右手が真っ黒に染まりその掌の中心に闇が渦巻いた。ゾルダートはその右手でサーベルの刀身を掴んだ。
そして当然の事ながら、自分に向かって振るわれたサーベルの刀身を掴んだゾルダートは、右手から激しく黒い血を出血させた。
「なっ!?」
「必要経費ってやつだ!」
自ら傷を負ったゾルダートに思わず目を見開くメリー。だが、ゾルダートはそれでも笑っていた。そして、ゾルダートは強引に掴んだままのサーベル引っ張ってメリーの体勢を崩し、その戦いの勘を以て左のナイフでプロトの剣を受け止めた。ノールックでだ。
「ッ・・・・・!」
「残念だったなぁ、守護者さんよ! さて、もう貰っちまったからてめぇも相手してやるよ!」
ゾルダートはプロトの剣を弾き、しゃがむと黒い血に塗れた右手で落としていた拳銃を取った。そして1発だけ拳銃を発砲した。その1発の銃弾はメリーの足に向かう。それに気づいたメリーは何とか回避しようとするが、完全に回避する事は出来ず、左足に銃弾を掠らせてしまった。
「ぐっ・・・・!?」
メリーが苦悶の声を漏らす。メリーの左足から血が流れる。ゾルダートはメリーに傷を負わせた事を確認すると、そのまま左足を回しプロトを蹴り上げようとした。




