第671話 カケラ争奪戦イギリス3(1)
「くくっ、こいつは間違いなく逆境だよなぁ。なら、発現するはずだよな?」
ゾルダートが楽しげにそう呟くと、ゾルダートに変化が訪れた。ゾルダートを包むように闇のオーラがその全身から立ち上がったのだ。その闇は激しく揺らめいていた。
「よーし、発現したな。冥のこいつは使い勝手が悪い方だが、ないよりはましだしな。さーて、これでプラマイゼロ。いや、ちょいプラスくらいかね・・・・・・!」
力が湧いてくるような感覚。ゾルダートは腰のポーチから予備の弾倉を取り出すと、それを右の拳銃の空の弾倉と取り替えた。左手の拳銃は再びジャケットの内にしまい、腰に1本戻していたナイフを手に取る。
そしてゾルダートは路面を踏み締め、メリーとプロトに突撃した。その速さは、まるでメリーによる弱体化の影響を受けていないように感じられた。
「ッ! プロト!」
「ああ、やるよ!」
突撃してきたゾルダートにまずはプロトが先行した。プロトの背後からは、メリーがプロトに当たらないように銃を発砲する。この銃ももちろんメリーの武器なので、当たればゾルダートは更に弱体化する。
「はははッ! 当たるもんかよ!」
しかしゾルダートはそう笑うと、メリーの放った銃弾を全て綺麗に回避した。そのゾルダートの身のこなしを見たメリーは少し疑問を感じた。
(っ? 気のせいですの・・・・・・・・? 弱体化しているはずなのに、俊敏さが弱体化する前よりも上がっている気が・・・・・・・もしかして、あの闇のオーラみたいなものに何か関係が?)
「プロト、気をつけなさいな! 何かおかしい気がしますわ!」
メリーは一応プロトに声を掛けた。メリーにそう言われたプロトはただコクリと頷いた。
「ふっ・・・・・!」
「守護者さんかい! だが、てめえは旨味がねえんだよ! お前は後だ!」
プロトの素早い斬り込みをアクロバティックに回避したゾルダートは、右手の銃を背面撃ちの要領で3回発砲した。そして、その勢いのままゾルダートはメリーの方に向かった。
(自ら挟み撃ちになるような形に・・・・・・? いったい何が目的だ?)
ゾルダートから撃たれた3発の銃弾を剣で弾きながら、プロトはそんな事を考えた。普通、2対1のセオリーにおいて、1の方は背後を取られないように動くのものだ。でなければ、このように挟み撃ちという形になり、ただでさえ数的不利を背負っている1人の側が、挟み撃ちの形を2人の側に取られれば勝つ事はほぼ不可能になるからだ。
それくらいの事をこの闇人が知らないはずがない。ゆえにプロトはゾルダートには何か目的や考えがあると察した。




