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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
670/2051

第670話 カケラ争奪戦イギリス2(5)

「チッ・・・・・!」

 ゾルダートのズボンが裂け、そこから少量の黒い血が流れる。闇人は光の浄化以外では死にはしないが、傷を受け黒い血を流し続ければ弱体化する。ゆえに、闇人は出来るなら傷を負いたくはないのだ。

 ゾルダートは一旦崩された体勢を整えるため、後方に左足で飛んだ。

「逃しませんわよッ! 私に傷をつけられた以上、()()()()()()()()()()()()()!」

 メリーは銃を発砲しながらゾルダートに向かって駆けた。ゾルダートは右手をジャケットの内に突っ込むと拳銃をもう一丁手に取った。

「ふざけろガキッ! 狩るのは俺の方だ!」

 ゾルダートは両手の拳銃を掃射した。その掃射でメリーの銃弾を弾いていく。

「いいえッ! 狩るのは私――狩られるのはあなたですわ闇人!」

 メリーはゾルダートの掃射を避けながら自分に当たりそうな銃弾だけサーベルで弾いていった。そして再びサーベルを上段からゾルダートに振るう。

(もう1本のナイフで受け止めるか? いや、回避した方が速いな)

 ゾルダートは咄嗟にそう判断し、サーベルを避けようとした。普通の人間の身体能力ならば避けるのは難しいだろうが、ゾルダートは力を解放した闇人。これくらいなら避けるのは容易い。

 そのはずだった。

「ッ!?」

 ゾルダートは自身の体に違和感を覚えた。自分の反応速度が少し遅くなった。そんな気がしたからだ。

 そしてその違和感のせいで、ゾルダートはサーベルを避ける事が出来なくなった。

「チッ!」

 ゾルダートは仕方なく両手の銃を交差させて、銃と銃の間で剣を受け止めた。少し無茶ではあったが、何とか剣を受け止める事が出来た。

(ッ、重い・・・・・・!?)

 しかし、またしてもゾルダートは違和感を覚える事になる。メリーの剣がなぜか重く感じたからだ。ゾルダートはメリーの剣をこの戦いで何度か受け止めていたが、この一撃はそれよりも重く感じられた。

(血を流した事による弱体化か? いや、この程度の出血量なら弱体化はほとんど誤差の範囲のはずだ。いったいどうなってやがる・・・・・・・・?)

 反応速度の低下に力量の低下。おそらくこれが違和感の正体だとゾルダートは予想した。それは自分が弱体化している事を表している。ゆえにゾルダートはそう考えたのだが、それでは説明がつかない気がした。

「ふふっ、戸惑っているようですわね。あなた、自分の体に違和感を覚えているのでしょう?」

「ッ! ハッ、なるほどな・・・・・・こいつがあんたの能力ってわけかい・・・・・!」

 笑みを浮かべるメリーの言葉を聞いたゾルダートは、自身が弱体化した理由を悟った。十中八九、メリーがゾルダートに何かしたのだ。

「ご明察・・・・・・ですわ!」

「ぐっ・・・・・・!?」

 メリーはそう答えると、サーベルを引き左足で蹴りを放った。ゾルダートはメリーのその蹴撃しゅうげきにまたも反応が一瞬遅れ、その蹴りを腹部にくらい後方へと吹き飛ばされた。

「――私の武器によって傷を負った者は弱体化する。傷の深度により弱体化の効果は大きく、また傷を負うごとにその効果は重複する。それが私の光導姫としての能力ですわ」

 メリーは得意げな顔で吹き飛んだゾルダートに自身の能力を明かした。メリーの言葉を聞いたゾルダートは、立ち上がりながら笑みを浮かべる。

「なるほど、そういうカラクリかい・・・・・地味な能力だが、厄介極まりねえ能力だな」

 ゾルダートは自身の右の脛に視線を落とす。メリーのサーベルによってゾルダートはこのダメージを負った。傷は浅いが、ゾルダートは確実に弱体化しているのだ。

「くくっ・・・・・・・はははははははははっ! 強いじゃねえかあんた! 正直ナメてたぜ! いいねえいいねえ! やっぱり戦いは面白れぇ!」

 普通に考えれば窮地。だが、ゾルダートは腹の底からの哄笑を上げた。これだ。この感覚がゾルダートに生を実感させる。

「ふん、戦闘中毒者ですの・・・・・・実りのない」

「ああ、全くさ! だが、それがいい! くくっ、あんたが能力を見せてくれた礼だ。ようやく、俺もあんたに見せてやれるよ。俺の闇の性質をなぁ!」

 ギラついた目でゾルダートはメリーにそう言った。その言葉を聞いたメリーが警戒したような目になる。

「プロト、すみませんがここからはまた頼みますわ。私と一緒に戦ってくださいな」

「了解したよ、クアトルブ嬢。さっさと先に進みたい所だけど、焦って勝てる相手じゃない。冷静に確実にやっていこう」

 メリーの隣に今まで見守っていたプロトが再び肩を並べる。そう。まだゾルダートは闇人としての能力を発現させていない。戦いは、まだ終わりはしない。

 ――ロンドンでの戦いは、まだ始まったばかりだ。

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