第67話 対決、レイゼロール中(1)
影人の渾身の一撃がレイゼロールに届くことはなかった。
影人の攻撃をレイゼロールが同じく剣で受け止めたからだ。
「・・・・・・舐められたものだな」
「化け物かよ・・・・・!」
半ば確信のあった一撃を軽々と受け止めたレイゼロールに、影人は思わずそんな言葉を吐き捨てる。
「・・・・・・・・我を誰だと思っている。闇の力の扱いは貴様などよりよほど心得ているぞ」
そのままレイゼロールは信じられないような力で、ジリジリ、ジリジリと影人の剣を押し戻していく。
「っ・・・・・・!?」
影人も全ての力を込めて、剣を押し戻そうとする。いわゆるつばぜり合いの状態と化したが、レイゼロールの剣は徐々に影人に迫ろうとしていた。
(こいつ、闇の力で身体能力を強化してやがるのか!?)
レイゼロールの体から揺蕩う黒いオーラのようなものを見て、影人はレイゼロールの超力の原因を悟った。
(くそったれッ! 俺も一瞬だけ、一撃だけならレイゼロールと同じく闇で身体能力の強化は出来るが、常時は無理だ!)
創造能力とは違い、闇を自らに纏わせるのは繊細なコントロールが求められる。一瞬ならどこかの部位に纏わせることはできるが、レイゼロールのように全体で常時となると、今の自分には不可能に近い。
その思考の間にも剣はどんどん押し込まれていく。
「貴様はまだ闇の力の扱いが十分ではないようだな。我に押し込まれているこの状況こそがその証拠だ」
「言ってくれるな――闇よ、弾けろ!」
力負けすると悟った影人は、剣を構成していた闇をあえて暴発させた。
突然、構成を暴発させられた闇はそれを中心として衝撃波を発生させた。
「っ・・・・・・!?」
「ぐっ・・・・・!?」
レイゼロールは身体を闇で強化していたので、ほとんどダメージを受けなかった。だが、突然の至近距離の衝撃波で、軽く後方に吹き飛ばされた。
一方、スプリガンの身体能力が超人的とはいえ、レイゼロールのように闇で身体の強化を行っていなかった影人は無視できないダメージを負い、転がるように後ろに吹き飛ばされる。
「・・・・・・・・・ははっ、こいつは効くぜ」
なんとか受け身を取り、少しふらつきながらも影人は距離が離れたレイゼロールに視線を向ける。
全身に痛みが走るが、体は十分に動く。おそらく大丈夫だろう。
今はそれよりも、プランを立て直す必要がある。
(近接戦ならと思ったが、それも厳しいと来た。なら、どうやってこの場を切り抜ける――?)
自分の勝利条件は、後ろの4人を逃がすこと。そのためにはレイゼロールの隙を作り出すことがその勝利条件を満たすことに繋がると影人は考えていた。なぜ、そのことが勝利条件に繋がるかというと、影人が考えている方法は多少の時間を要するからだ。
しかし、近接も厳しいとわかった今、その方法は難しい。
残る方法は――
「・・・・・答えはシンプルだな。闇よ、剣と化せ。も1つ、闇の鎖よ」
フェリートの時と同じ、ダメージを負わせて撤退させる。その方法しかないと考え直した影人は、闇の剣と虚空から伸びる鎖を再度召喚した。
(相手はレイゼロール。冗談抜きで超がつく強敵だ。そんな奴を撤退させるのは無理ゲーに近い。・・・・・だが、やるしかねえ)
影人は静かに覚悟を固め直すと、再びレイゼロールに接近すべく駆けだした。
その影人の動きに合わせ、5本ほど召喚された鋲付きの鎖も追尾するように影人の周囲を飛行する。
「来るか・・・・・・いいだろう、懲りずに近接を挑むというならば乗ってやる」
レイゼロールもまた闇の腕のようなものを召喚すると、牽制のようにそれをスプリガンにけしかけた。
影人はその対応に周囲の飛行していた鎖に任せた。同じ闇色の鎖と腕が激突する間、影人はレイゼロールに斬りかかる。
レイゼロールは眉1つ動かさずその一撃を剣で受け止める。
止められる事などは分かっていたので、次に影人は右袈裟に斬りかかる。
だが、それも軽々とレイゼロールは反応する。
そのまま、左袈裟、逆右袈裟、真一文字、逆左袈裟と怒濤の攻撃を仕掛けるが、影人の攻撃は全て受け止められる。
今度はこちらの番とばかりに、レイゼロールもスプリガンに斬りかかる。レイゼロールは闇で身体能力を強化しているため、その剣を振るう腕や剣閃すらも常人では見ることすら敵わない超高速だ。おそらくこの攻撃はアカツキやスケアクロウも見て反応することは難しいだろう。
(見えるぜ・・・・・!)
だが、スプリガンの金の瞳はその全ての攻撃の軌道がはっきりと見える。
スプリガンの肉体の中でもこの眼という部位は特別だ。なぜならば、影人の仕事は見るという行為が非常に大切だからだ。
そして見えるということは反応できるということでもある。
通常の自分の肉体ならば例え、この攻撃が見えていても避けられるということは決してない。まず間違いなく影人の肉体の反応が間に合わない。そもそもスペック不足だ。
しかし、スプリガンの肉体は光導姫や守護者と比較してもオーバースペックだ。その事実を影人は知らない。影人が知っているのは、力の使い方だけで自分と比較するだけのデータまでは与えられた知識の中にはなかったからだ。
影人は金の瞳で攻撃を確認し、スプリガンの肉体で反応し、斬撃を自分の剣で受け止め、時には避ける。レイゼロールの一撃は非常に重いため、そこは剣を滑らせ受け流す。
(存外やれてるが、攻撃を凌げてるだけじゃ意味がねえ。ここから、どうやってこいつに一撃喰らわせる――?)
ほんの少し殺意の色を灯らせた瞳をレイゼロールに向けながら、影人とレイゼロールの近接戦が幕を開けた。




