第669話 カケラ争奪戦イギリス2(4)
ゾルダートが右の前蹴りを放つ。メリーは華麗にその前蹴りをヒラリと避けると、左手の銃をゾルダート目掛けて放とうとする。
「甘いッ・・・・・・!」
だが、ゾルダートはメリーに銃を撃たせようとはしなかった。ゾルダートは拳銃を持った左手を、メリーの銃に向かって突き出しメリーの銃口を逸らさせる。
次の瞬間に響くは雷号のような銃声。しかし2人の剣と銃を使った戦いはまだまだ終わらない。
今度はゾルダートが至近距離からメリーに拳銃を発砲しようとした。しかしそれはブラフだ。ゾルダートは左の拳銃を発砲するふりをして、右手のナイフをメリーの右目に突き刺そうとした。
「その程度!」
メリーは強気な笑みを浮かべ、ゾルダートのナイフによる突きを顔を逸らして避ける。最小限の動作であったため、頬からは少量の血が流れていた。
「ハッ! その綺麗な顔、傷ものになっちまったなあ! お嬢さんよ!」
「こんな傷唾つけとけば治りますわ! それに、戦いで傷付くのは当然でしょう!?」
ゾルダートの言葉にメリーは少し乱暴に笑うと、右の肘鉄を放った。ゾルダートは仕方なくその肘鉄を避けた。
(危ねえ・・・・・! つーか何なんだよこの光導姫。この俺と対等に近接でやり合えるだと? たかだかこんな女のガキが?)
ゾルダートは現役の傭兵。いわば戦闘のプロだ。近接戦で光導姫を圧倒出来ないというのは普通はおかしい。
光導姫は普通の人間とは違い、特殊な能力や凄まじい身体能力を持っているが、その殆どはただのガキだ。戦いというものをまるで知らなかったただの子供。だというのに、目の前の光導姫はゾルダートと同等の戦闘センスを持っている。明らかに普通の子供以上に箱入りという感じであるのにだ。
「オラっ!」
「うおっ!?」
ゾルダートをしても抱かずにはいられなかった一瞬の疑問。いや、ゾルダート程の戦いのプロだからこそ余計に意識に引っかかたその疑問。そこに生まれた一瞬の隙をメリーが悟ったのかは分からないが、メリーは唐突に自分の左足でゾルダートの右足に足払いを掛けた。そして、ゾルダートはその足払いによってバランスを崩された。
「隙ありですわッ!」
バランスを崩したゾルダートにメリーが左の銃を向ける。ゾルダートはそれだけは食らうまいと、右手に持っていたナイフをメリーに向かって投擲した。髪を螺旋状に巻いた光導姫は、回避の行動を取らざるを得なくなったが、ゾルダートはバランスを崩した上に無茶な体勢からナイフを投擲した。ゾルダートの動きは今は完全に硬直している。今ならば攻撃が当たる。
「無茶も・・・・・・・・淑女の嗜みですわ!」
メリーはナイフを回避すると同時に、右手のサーベルをギリギリまで伸ばし、ゾルダートの右の脛めがけてサーベルを振るった。本当は銃弾を当てたかったが、サーベルの方でも相手に傷をつけさえすれば、メリーの光導姫としての能力は発動する。とにかく、攻撃を当てなければメリーの能力は発動しないのだ。
そしてメリーのサーベルは、ゾルダートの右の脛を浅くではあるが切り裂いた。




