第664話 カケラ争奪戦イギリス1(4)
「――見つけましたわよ、レイゼロール。それに、最上位闇人たち」
影人がレイゼロールを追い始めた頃、ロンドンの街にそんな少女の声が響いた。金色の髪を螺旋状に巻いたどこか気品を感じさせる少女だ。美しい刺繍の入ったワンピースのような服装をしている。それだけを見るなら、少女は普通の可愛らしい少女だ。しかし、少女の腰のベルトには古臭いフリントロック式の銃とサーベルが装着されていた。それだけで、少女のイメージはガラリと変わる。
「悪いけど、この街は君たちを歓迎しないよ。早々にご退場願えるかな?」
少女の言葉に続くように、少女の隣にいた少年が軽い笑みを浮かべながらそう言った。ブロンドの髪に翡翠色の瞳をした少年だ。黒色のフロックコートに薄い灰のベスト、白のシャツに少年の瞳の色と同じ翡翠色のネクタイ、黒のズボンを履いたその少年の出立ちはまさしく紳士だ。まあ、普通の紳士は右手に片手剣などは持っていないだろうが。
「・・・・・・光導姫と守護者か。ソレイユとラルバの犬どもめ。我の邪魔をするな」
人がいないロンドンの大きな路地の真ん中で対峙した光導姫と守護者に向かって、レイゼロールは忌々しそうにそう言葉を吐いた。ビックベンを目指していた自分たちを追いかけて来たこの光導姫と守護者は、相応の実力を兼ね備えた厄介な者たちだろうという事が容易に想像できたからだ。
「ああ? 別に歓迎なんかいらねえんだよ、貧弱そうな紳士気取りの守護者野郎。てめえをこの世から退場させてやろうか?」
「上品そうなお嬢様に英国紳士サマ・・・・・・いかにもイギリスって感じの光導姫と守護者だなぁ。さあて、あんたらは楽しめる相手なのかねぇ」
レイゼロールの近くにいた2体の最上位闇人である冥とゾルダートも、現れた光導姫と守護者にそれぞれの反応を示した。冥とゾルダートの反応を見た光導姫の少女は、汚らわしい物を見るようにその顔を歪ませた。
「粗野で下品な闇人どもですわね。ああ、嫌ですわ。品位がカケラも感じられない輩というものは」
「同意するよ、クアトルブ嬢。さて、始めようか。君は死んでも僕が守り抜いてみせるよ」
「その気概、確かに受け取りましたわプロト。さあ行きますわよ、動きは私に合わせてくださいな」
そんなやり取りを最後に、髪を螺旋状に巻いた少女――光導姫ランキング6位『貴人』のメリー・クアトルブは、腰のベルトからサーベルと銃を抜き、右手にサーベルを左手に銃を持ち、それらを構えた。そして英国紳士風の少年――守護者ランキング1位『守護者』のプロト・ガード・アルセルトも右手に持っていた片手剣を前方に構える。
「・・・・・我は先を急ぐ。足止めを頼んだぞ、冥、ゾルダート」
「チッ、分かっ――」
レイゼロールからそう頼まれた冥は、仕方ないといった感じで了承の言葉を述べようしたが、冥が言葉を言い切る前に、ゾルダートがこう言葉を挟んできた。
「ここは俺だけに任せちゃくれませんかね、レイゼロール様。この2人を足止めするっていう仕事はキッチリ果たしますので」
ゾルダートは一歩前に出ると、不敵な笑みを浮かべた。ゾルダートの言葉を聞いた冥は、少し不機嫌そうにその表情を変化させた。




