第662話 カケラ争奪戦イギリス1(2)
黒いジャッケットと錆色の赤いズボン。腰には少し大きめのポーチ。それになんの変哲もない靴。一見すると普通の服装だ。しかし、よく見てみると腰にはナイフが2本装備されている。つまり、ゾルダートは武装していた。まあ、その他にもジャケットの内側や腰のポーチの中にも武器を隠しているのだが。
「にしても、光導姫と守護者と戦るのは久しぶりだなぁ。ああ、ゾクゾクするぜ・・・・・!」
ゾルダートは邪悪な笑みを浮かべながらそう呟いた。闇人として力を解放して戦うのは大体100年ぶりだ。力を十全に解放しての戦い。考えるだけで興奮で震えてくる。
「で、レイゼロール。俺らは実際、今からどこへ向かうんだよ? 響斬からの情報にはロンドンのどこにお前の探し物、それがあるかもしれないって書かれてたんだ?」
冥がレイゼロールにそんな質問を投げかける。ロンドンのどの場所にカケラが存在する可能性があるのか。具体的な場所が分からなければ、探し用がない。ロンドンは3人で探すには広大な都市だ。
「響斬からのカケラに関する噂が書かれた手紙にはこうあった。曰く、『ロンドンの時計台、その時計の1つの針の根元に黒い石が埋め込まれている』・・・・・ロンドンの時計台といえば、1つしかあるまい」
そして、レイゼロールは口にした。自分たちが目指すべきその場所の名を。
「我らが向かうのはクロックタワー・・・・・・・通称、ビックベンだ」
「――ここがロンドンか。すげえな・・・・・パリの時も思ったが、ゲームとか映画みたいな街だぜ」
レイゼロールたちがビックベンを目指し始めた中、ロンドンの路地に1人の少年の姿が見えた。半袖の白シャツに黒のズボン――日本では一般的に学生の夏服として知られる――格好をした異様に前髪の長い少年である。その少年、帰城影人は少し感動したような声でそう呟いた。これで晴れて不法入国2回目の前髪野郎である。
『影人、すみませんが今はロンドンの街に見とれている場合では・・・・・・』
「分かってるよ。観光で来たわけじゃねえしな。で、状況は今のところどうなってんだ?」
影人は細い路地の壁にもたれ掛かりながら、ソレイユに現在の状況を聞いた。東京からロンドンという超長距離の転移の準備に、ソレイユが5分ほど時間を要したため、影人にはその間の状況が分からない。
『はい、では現在のロンドンの状況をお伝えしますね。まずロンドン各地の闇奴4体ですが、これはロンドンにいた光導姫と守護者たちに相手をしてもらっています。幸い、闇奴のレベルはそれほど高くはないですが、1体だけ少しレベルが高い闇奴がいます。そこだけ光導姫と守護者が苦戦気味ですが、先に他の闇奴を浄化させた光導姫たちを向かわせる予定ですので、問題はないです』
「了解だ。なら、そっちは俺が行かなくても良さそうだな」
影人はソレイユの言葉に頷いた。いざとなれば自分が闇奴の元に行く必要もあるかと考えていたが、いま聞いた状況なら大丈夫だろう。




