第661話 カケラ争奪戦イギリス1(1)
「ふむ、次の場所はイギリス・・・・・・ロンドンか。パリと同じくまた厄介な場所だな・・・・・・・・」
時間は少し遡り、まだレイゼロールがロンドンに出現する前。シェルディア経由で響斬から渡された、カケラに関する噂が書かれた手紙を見ていたレイゼロールは、石の玉座に座りながらそう呟いた。
(あの都市は退魔の都市の一面を有している。ゆえに、我が足を踏み入れた時点で気配隠蔽は解除される。日本のあの山といいパリといい、噂は面倒な場所にあるものだ・・・・・・)
しかし、レイゼロールに確かめないという選択肢はない。拙い不確かな情報であろうと、レイゼロールは今はそれに縋るしかない。
(一応、冥とゾルダートを連れて行くか。どうせソレイユとラルバにバレると分かっているならば、足止め係がいた方がいい。シェルディアたちは・・・・・おそらく今回は来ないだろうな。いくらあの化け物でも、東京にいてイギリスの戦いの気配を感じる事は不可能だ)
レイゼロールは思考を巡らせる。よしんばシェルディアがその超長距離感の気配を感知できたとしても、シェルディアがロンドンに現れる確率は極めて低い。シェルディアの現在の興味の対象はスプリガン。シェルディアは今のところスプリガンが東京、又は日本にしか出現しないと考えているはずだ。
実際は昨日スプリガンはパリに現れたので、ロンドンに出現する確率も大いにある。だが、シェルディアはその事を知らない。ゆえに、シェルディアがロンドンに現れる確率は限りなく低い。
「・・・・・・行くか」
レイゼロールはポツリとそう呟くと、数十分後ゾルダートと冥を伴ってロンドンへと降り立った。
「・・・・・・・・これくらいでいいだろう」
「――!」
ロンドン時間、午前9時過ぎ。レイゼロールは目の前で奇怪な鳴き声をあげる闇奴を見つめると、そう呟いた。闇奴は元の人間の闇が深かったのか、ヌメリとした皮膚の異形型として誕生した。
「これで4体目・・・・・・・これだけ闇奴を放てば多少はソレイユとラルバも混乱するだろう。撹乱の罠は張った。行くぞ冥、ゾルダート」
レイゼロールは自分に付き従っている2人の闇人――「十闇」第6の闇『狂拳』の冥と、「十闇」第5の闇『強欲』のゾルダートにそう言った。
「俺に命令するんじゃねえよ。ったく、面倒な仕事押し付けやがって・・・・・これで雑魚い光導姫と守護者しか来なかった承知しねえぞ?」
「くくっ、安心しろよ冥。向こうさんもバカじゃねえんだ。俺、お前、レイゼロール様・・・・・・俺たちの気配を見て戦力を送る向こうが、わざわざ雑魚の敵なんか送ってきたりしねえよ。今までもそうだっただろ?」
機嫌が悪そうな冥に、ゾルダートはニヤけながらそんな言葉を送った。レイゼロールと冥の服装はいつもと変わらないが、ゾルダートだけは少し違っていた。




