第66話 対決、レイゼロール上(3)
「・・・・・・すごいね、彼。よくあの攻撃の物量を凌げるな」
「そこは同意だな。つってもあの力も相当ヤバイぜ。見たところ物質創造能力みたいだが、汎用性がハンパじゃない」
鬼神の如き動きでレイゼロールの攻撃を捌くスプリガンに、アカツキとかかしはそう呟いた。
「よくあの造兵を簡単にぶっ潰せるぜ。あいつら1体1体かなり強いのによ・・・・・」
「え、とてもそうには見えませんけど・・・・・・」
かかしが呆れたように言った言葉に、陽華が反応した。スプリガンに軽々やられていく造兵たちは、いわゆる雑魚のようにしか見えない。
「普通に強いよ。僕とかかしはこの前レイゼロールと戦ったけど、あの造兵を召喚された。あいつら見た目は雑魚のくせに、かなり強くてね。僕たちはだいぶ苦戦した」
アカツキが陽華の言葉に答える。アカツキとかかしが戦ったのは、レイゼロールが都心に出現したとき、すなわち陽華と明夜がフェリートと戦っていた時だ。
だからアカツキとかかしは先ほどから冷や汗が止まらない。それは恐怖からくるものではない。ランカーだからこそわかる。レイゼロールと戦ったからこそわかる。
スプリガンがどれほどデタラメに強いかが。
(能力もとんでもないけど、身体能力も尋常じゃない。それにあの動き、全部見えていないと、あの動きは出来ないだろうね。・・・・・・・彼の目的は分からないけど、戦いたくはないな)
アカツキはスプリガンを分析しながら、そんなことを考えた。
(・・・・・でもやっぱり、悪い人ではない気がするな。この壁だって僕たちを閉じ込めるためじゃなくて、僕たちをレイゼロールから守るためのものだろうし。それに・・・・何て言うのかな。彼を知らないはずなのに、なぜか信用できる気がする)
それはただ自分がそう感じただけであって、何の証拠もない憶測だ。しかし、そこには言葉では説明できない確信のようなものがあった。
「・・・・・・・ねえ、レッドシャイン」
「なに? ブルーシャイン?」
口を真一文字に結び、スプリガンの戦いを見ていた明夜が、拳を握りしめて言葉を続けた。
「・・・・・・・私たち強くなろう。あの人に守ってもらわないように、あの人を助けられるくらいに強くなろう」
月下明夜はクールビューティー風のポンコツ女子だ。だが、彼女は義理堅く芯のある、そう言う面ではしっかりとした女子でもある。
だから彼女はスプリガンに助けられっぱなしのというのが我慢ならない。というか納得いかないのだろう。幼馴染である陽華には明夜の性格が手に取るようにわかる。
「・・・・・・・うん、そうだね。2人で一緒に強くなろう」
陽華が明夜の手を握る。明夜も陽華の手を握り返す。新たな決意を固めた2人は静かにスプリガンとレイゼロールの戦いを見守った。
鎖を腕の対応に回したため、造兵たちが四方八方から影人めがけて襲いかかってくる。
(博打といくか・・・・・・・)
影人は姿勢を低くして体を捻る。そして造兵たちが攻撃を行うギリギリのタイミングを見計らって、両の手の双剣を思い切り振る。
スプリガン状態の全力の一撃で周囲の造兵はまとめて切り刻まれてゆく。
「――闇よ、俺の足に纏え」
その隙に影人はイメージに形を与えるべく、言葉を紡ぐ。
影人の力は闇。それは形のない力。ゆえに全てに変わる力。影人はその力を主に武器などの物質の創造に当てているが、この結界を破るために先ほど闇の力を自分の足に纏わせて破壊の力に変えた。
ならば今度はそれを瞬発力に変えればいい。
造兵をあえて自分に集中させ一気に潰すことで、レイゼロールの元への1直線の道が開かれた。
そして爆発的な瞬発力で影人は駆けた。
「っ・・・・・・!」
そのあまりの加速にスプリガン状態の肉体が軋むような音を立てる。この強引すぎる近接に持ち込む方法は、フェリートを真似たものだが、元が純粋な人間の自分にはやはり厳しかったようだ。
だがそのおかげで、影人は信じられないような速度で駆けることができた。
普通の人間ならば絶対に反応できないような超速度。さらに両手を前方で交差させ、影人は双剣を思い切りレイゼロールに投擲する。
「ちっ・・・・・」
レイゼロールは軽く舌打ちをすると、自分に向かってくる双剣を新たに呼び出した闇の腕で止めた。
「闇よ、剣と化せ――!」
右手に新たな剣を創造し、影人はレイゼロールの懐へ潜り込むことに成功した。
「っ・・・・・!」
レイゼロールが双剣に刹那の対応の時間を割いたことで、影人はレイゼロールに接近することに成功した。レイゼロールがその無表情な面に初めて感情の色を灯す。
(いきなりの近接戦だ! 遠距離ばかりの攻撃しかしてこなかったお前に、この一撃は対応できない!)
影人は剣を両手で持ち左から振りかぶり、真一文字の一撃を繰り出した。
超加速からの一撃。この一撃でレイゼロールが死ぬなどということはないだろうが、フェリートと同じようにダメージは負うはずだ。それでレイゼロールが撤退すればよし。徹底せずともダメージを負ったレイゼロールなら、どこかで隙を見せるはずだ。
影人の一撃がレイゼロールを捉える。そう影人が確信した瞬間、レイゼロールはぽつりと言葉を漏らした。
「――まさか貴様、私が近接で戦えないとでも思っていたのか?」
ガキンィィィィィィン、と硬い物と硬い物がぶつかったかのような音が響いた。
「ッ!?」
影人の渾身の一撃はレイゼロールが、いつの間にか握っていた剣に受け止められていた。




