第658話 芸術家ボンジュール3(3)
「あ、帰城くん・・・・・そうだね。僕たちも人を待たせている身だ。これ以上時間を掛けるのはいけないかな。僕たちもこれで失礼します、ピュルセさん。・・・・・・・・有名な芸術家であり、光導十姫の1人『芸術家』であるあなたと会えて光栄でした」
「「え・・・・・!?」」
「おや、その事を知っているという事は君は守護者か。そちらの2人の反応からするに、君たちも光導姫か。これはまた偶然だね」
光司の言葉を聞いた陽華と明夜はロゼと出会った時とは違う意味で驚愕した。2人はロゼが光導姫だとは知らなかったのだ。そして、光司にそう呼ばれたロゼは面白そうな顔を浮かべた。
「しかし、あの少年が離れた時にそう言って来るという事は、あの少年だけは守護者などではなくただの一般人か」
「はい、帰城くんは違います。僕たちが守るべき力ない一般の人々です」
少し先を歩く影人の後ろ姿を見ながらロゼと光司はそんな言葉を交わす。あの前髪野朗が守られるべき力ない人々というのは、首を90度以上傾げる所だが光司は何も知らないので、そういった意味では正しい認識だ。
「ふむ、そうかい。ではさよなら、諸君。私はしばらくは東京にいる予定だから、また会う日もあるだろう。君たちと出会えてよかったよ」
「あ、こちらこそです! 私、ロゼさんが光導姫だとは知りませんでしたけど、出会えて本当によかったです! 私たち、いつかロゼさんたちがいる場所まで辿り着いてみせます!」
「私たち、ランキング1位目指してますので。じゃあ、また出会える日を願ってます」
別れの言葉を口にしたロゼに、陽華と明夜もそう言葉を返す。こうして光司、陽華、明夜の3人も影人の後を追った。
「まさか、あのロゼ・ピュルセさんが東京に来てるなんてね。今日はラッキーな日かな、帰城くん?」
「知らねえよ。平然とまた俺の隣を歩くんじゃねえ。・・・・・あと、俺は有名人と会ったからって嬉しいとかそういう性格じゃねえんだよ」
このまま光司たちを振り切れるかと思っていた影人の隣に、素早く現れた光司が影人にそう語りかけてくる。影人はそんな光司に辟易とした。
そもそも、どちらかと言えば影人は有名人とは出会いたくはない派だ。それはファレルナやソニアといった有名人と出会い、基本的に面倒事に巻き込まれる経験が多かったゆえの考えだ。まあそれ以前に、影人は有名人というやつにあまり興味はないのだが。
「そうかい。まあ、確かにそれは人によるね。でも、僕はラッキーだと感じたよ」
「私も! やっぱり、有名人と会うと何か嬉しくなっちゃうよね!」
「私たちも所詮ミーハーの高校生。それをよくよく実感するわね」
「けっ・・・・・・・どうでもいいぜ」
はしゃぐ3人の言葉に悪態をつきながら、影人たちは風洛高校へと戻った。




