第652話 芸術家ボンジュール2(2)
基本的に影人は最低限にしかクラスメイトとは関わらない。ただ単に、クラスメイトと関わるのは面倒だし、影人は1人が好きだからだ。そこに光司や陽華のような特別な拒否の理由はない。
この社会不適合な前髪はそういったスタンスであるので、初めに誰が何の小道具を作るかを決める時にしか他のメンバーたちと話をしなかった。文化祭の準備が始まったのは2日前の9月4日からだが、影人はそれ以降基本は1人で小道具を製作している。小道具の他のメンバーはそんな影人にどう声を掛けていいか分からないため、このような状況になっているといった感じだ。つまり、非は全てこの前髪にある。くたばりやがれ。
「あ、あの帰城くん、ちょっといいかな・・・・・・?」
「・・・・・なんでしょうか?」
影人が1人で黙々と作業をしていると、小道具のメンバーの1人である男子生徒が影人に話しかけて来た。影人はそんな男子生徒にそう言葉を返した。
「その、ちょっとテープとか紙とかの材料が切れちゃってさ。俺たちはいま手を離せない作業をしてるんだけど・・・・・・・買い出し頼まれてくれない? いや、無理だったら断ってもらっても構わないんだけど・・・・!」
男子生徒は緊張したような顔持ちでぎこちない笑みを浮かべている。その奥では他の小道具のメンバーも緊張したように影人たちの方を見守っている。いや、というか実はクラス中(紫織を除く。紫織は椅子に座りながら爆睡していた)が他の作業をしながらも影人とその男子生徒に注目していた。
(っ、やめとけやめとけ! そいつだけは関わったらマジでヤバい! クラスの不文律知ってんだろ!?)
(明らかにヤバい奴だから最低限しか関わらない。それが暗黙の了解だろ!? よく考えろそれは本当に最低限なのか!?)
と、2年7組のクラスメイトたちの心の声はだいたいこのようなものであった。顔の上半分を支配している異様に長い前髪による容姿、独り言をよく話す癖、以上のような要因から影人はこのクラスではヤバい奴認定をされている。だが、その事を影人は知らない。きっと本人が知れば、その方が楽だと断言するだろう。そして、「フッ、俺は1人が運命なんだよ」と気色の悪い笑みを浮かべるに違いない。悲しいが想像する事が容易すぎる。
(ああ、最悪だ・・・・・・何で俺はあそこでグーを出したんだ・・・・・・・・・・)
以上のような理由で教室中が注目する中、影人に話しかけた男子生徒は自身の不幸を呪っていた。男子生徒たち小道具係がいま手を離せないのは本当で、仕方なく誰かが同じ小道具係の影人にそうお願いしてみようという事になったのだが、当然誰も影人にお願いしに行きたくはなかったので、ジャンケンをする事になり、この男子生徒が影人にお願いをしに来たというのが事の顛末である。
「買い出しですか・・・・・・分かりました。何を買ってくれば?」
「え? いいの・・・・・?」
だが、男子生徒が思っていたよりも影人はあっさりとそのお願いに頷いた。男子生徒は思わず目をパチパチとさせた。




