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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第650話 芸術家ボンジュール1(6)

「なっ・・・・・・!? 待てスプリガン! まだ私は何も君を表現できてはいない! そんな事は許されない! 待ちたまえ、待ちたまえよッ! モデル(マヌカン)が逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 逃走した影人に激怒したのか、ロゼが左手に持っていた白い何かを地面に落としながら影人を追いかけてくる。しかし、影人が乗っている馬のスピードが凄まじいという事もあり、ロゼと影人の距離はどんどん離れていった。そして、ロゼの姿は遂には見えなくなった。

「怖え・・・・・・いったい何だったんだよあいつ・・・・」

 チラリと後方を見た影人は、ついそんな言葉を漏らした。正直に言って、『芸術家』は理解に苦しむ人物だった。ちなみに、影人が馬に乗るのはこれが初めてだが、今のところコントロールに問題はない。この馬はあくまで影人が創造したものなので、影人の言う事は絶対に聞くからだ。落馬などの心配も、スプリガンの身体能力があれば何の心配もない。

『ロゼは光導姫としての能力もそうなのですが、本人も少々特殊な子なんです。普段は大人びているのですが、時折りああいう感じになったりします』

「天才って奴はよく分からないな・・・・・・まあ、理解する気もねえんだけどよ」

 ソレイユから軽くロゼの事を聞かされた影人は、そんな当たり障りのない感想を漏らした。周囲には人払いの結界の効果が切れたのか、チラホラと人の姿が見え始めた。なら、そろそろいいだろう。

「よっと・・・・・」

 影人は馬に止まれと念じて馬を止めさせると、その闇色の馬を虚空へと消した。そして近くの暗がりの路地へと身を隠す。

「いいぜ、ソレイユ」

『了解しました。では転移を開始します』

 そんなやり取りの数秒後、影人の体が光に包まれ始めた。

『そう言えば、なぜわざわざ馬で逃げたのですか? いつもは普通に走るのに』

 転移が完了するまでの間に、ソレイユが少し気になったという感じでそんな事を聞いて来た。

「ん? ああ、せっかくヨーロッパに来たから多少の思い出作りにだ。パリの街並みの中、馬で走るってそれっぽいだろ? それ以上の理由はねえよ」

『なるほど。それで、ちゃんと思い出にはなりましたか?』

 あと少しで転移が完了する。その前に影人はこう答えた。

「はっ、余裕で一生もんだ」

 影人は軽く笑みを浮かべた。

 転移の光が完全に影人を包む。そして、影人は光の粒子となって異国の地から完全に姿を消した。













「ああなんて事だ! あれ程のモデルを逃すとは・・・・・・! 絵も全く完成していない! 今日はなんて幸運で不幸な日なんだ!」

 一方、ヴァンドーム広場に残されたロゼはというと天を仰ぎ嘆いていた。そんなロゼの姿を見た守護者の少年は、「あ、ダメだこいつ。ヤバい奴だ」といった感じの顔を浮かべ、「じゃ、じゃあ俺は帰るから」と言って即座に変身を解除しその場から離れた。

「だがしかし、あの深淵の先に何があるのか。私はそれが気になる。スプリガンという存在の本質を描かねば私は気が済まない! ならば行かねばならない! あの怪人が最も多く現れた場所に!」

 ロゼはグッと右手を握ると、自分以外誰もいないヴァンドーム広場で高らかにそう宣言した。そうだ。自分はあの怪人にまた会わねばならない。であるならば、スプリガンと最も多く邂逅する可能性のある場所に行く必要がある。

「ならばよしッ! では行こうじゃないか! 日本へ! その首都たる東京へ! 待っていたまえスプリガン! 今度は絶対に逃がさない! 君の全てを描き終わるまでな! ははっ、はははははははははははははははははははははははははははははははははッ!」

 ロゼの高笑いが広場に響く。光導姫『芸術家』、ロゼ・ピュルセ。彼女はその宣言通り、その2時間後の日本行きの飛行機に乗り、東京へと降り立つ事になる。

 ――スプリガンを追う者として。

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[一言] 1人だけマッドサイエンティストみたいなのいる…
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