第648話 芸術家ボンジュール1(4)
「――おや? てっきりレイゼロールがいるものかと思ったが、違う人物だね」
「ッ!? なあ『芸術家』、あの男の出立ち・・・・・あいつが例のスプリガンって奴じゃないか?」
現れたのは影人と同じくらいの年の少女と少年だった。スプリガンの事を知っている様子からするに、おそらく光導姫と守護者だろう。
「おおなるほど。確かに聞いていた特徴と彼の特徴は一致しているね。では、まずは初対面の彼にご挨拶しないとだ。ボンソワール、スプリガン。私はしがない光導姫、名を『芸術家』という。以後、お見知り置きを」
少女が少し芝居がかった感じでそんな挨拶をしてきた。長髪の髪の色は水色だが、一部分が白色に染められている。好奇心渦巻く瞳の色は薄い青で、その顔立ちはかなり整っている部類だ。
格好は頭にペレー帽を被り、上半身は白色のシャツ、腰には3本ほど筆が収納された黒の腰エプロンを装着している。ズボンはピタリとした水色のズボンで足元は絵の具か何かで汚れたスニーカーを履いている。その格好も相まってか、スタイルもかなりいい。
「光導姫・・・・・・・2つ名って事は、ランキング10位内の最上位クラスの光導姫か」
「おや、よくご存知だね。確かに私はランキング7位だよ。まあ、その位置に私がいるのは違和感しかないんだけどね」
自らの事を『芸術家』と名乗った光導姫は、影人の言葉に軽く拍手を送りながらそう言った。
(なるほどな。周囲に人の姿が見えなかったのは、光導姫がここに向かって来てたからか。つーか、この光導姫もどっかで見た事あるな・・・・・)
光導姫は変身すると同時に人避けの結界のようなものを自分の周囲に展開する。その範囲までは正確には影人には分からないが、人避けの結界を展開した人物がこの場に近づいて来ていたならば、周囲に人がいなかった理由も納得がいく。そんな事を考えながらも、影人は『芸術家』と名乗る光導姫にどこか既視感を覚えていた。
『影人、その光導姫『芸術家』はファレルナやソニアのように有名人です。彼女の名前はロゼ・ピュルセ。世界に名だたる芸術家です。あなたが彼女に既視感を覚えたのは、おそらく何らかのメディアで彼女の姿を見たからでしょう』
(ああ、そうだ。確かテレビのニュースで見た記憶があるぜ)
この場に光導姫を派遣したソレイユが、そんな事を影人に伝えて来た。ロゼ・ピュルセ。去年の芸術賞で数々の最優秀賞を受賞した天才芸術家、とテレビでは言っていた気がする。
それにしても、光導姫というのは存外に有名人が多いものだ。あの天才芸術家が光導姫。普通ならば多少は驚くべきところだが、影人は既に何回も似たような経験をしているので、そういう事ではもう驚かなくなってしまった。慣れとは恐ろしいものである。




