第643話 光と影は、交わらない(4)
「何かな、朝宮さん?」
陽華に呼ばれた光司は廊下に出て陽華にそう聞いてきた。
「あ、ごめんねお昼休み中に。その、香乃宮くんて実戦研修の時にいた帰城穂乃影さんって知ってるかな? 研修の時は、私達の補助に回っててくれた人なんだけど」
「ああ、もちろん知っているよ。彼女とは研修の前日に顔合わせをしていたからね。その帰城さんがどうかしたのかい?」
陽華から突然そう聞かれた光司はコクリと首を縦に振った。光司の反応を見た陽華は「あ、本当。よかった!」とホッとしたような笑みを浮かべた。
「じゃあ、この学校にいる帰城さんのお兄さんのこと知らないかな? 帰城さんが言うには、お兄さんはこの学校にいて私達と同学年らしいんだけど・・・・・・あ、帰城さんとはちょっと話す機会があって、その時に聞いたの。で、出来れば会ってみますって言ったんだけど、そのお兄さんがどこのクラスにいるのかわからなくて・・・・・」
お兄さんの容姿も分からないし、友達に聞いてみても知らないって言う人ばっかりで、と陽華は付け加えた。だから研修の講師係として穂乃影と一緒であった光司ならば、もしかしてその兄の事を知っているのではないか、と陽華は思ったとのことだった。
「・・・・・・なるほど。話は分かったよ、朝宮さん。そしてその事ならば安心してほしい。僕は帰城さんのお兄さん――帰城影人くんの事を知っているからね」
そして、陽華の言葉に光司はそんな言葉を返した。
「え、本当に!?」
「ああ、これでも夏休みの間に一緒に回転寿司にも行った仲だよ。まあ、僕は彼には嫌われているんだけどね・・・・・」
「そ、それは仲が良いのか悪いのかどっちなの・・・・・・?」
一瞬誇らしげな顔を浮かべるも、すぐさま落ち込んだような顔になった光司の言葉に、陽華は思わずそんな言葉を述べた。一緒に回転寿司に行った仲だというのに嫌われているというのは、なんだか矛盾しているように感じたからだ。
「ははっ、難しいところだね。でも朝宮さんの話は分かった。放課後、僕が帰城くんのところまで君を案内するよ。彼のクラスはもう調べてあるし、僕の言葉でも多少は反応してくれるはずだし」
「うーん、なんだか色々と気になるところはあるけど・・・・・・ありがとう、香乃宮くん!」
こうして、2人は放課後に影人の元を訪ねる事を決めたのだった。
「朝宮さんを君のクラスまで案内しようとしたら、ちょうど君の姿が見えてね。声を掛けさせてもらったんだけど・・・・・・朝宮さんと帰城くんは知り合いなのかい?」
そして時は現在に戻る。陽華の隣にいた光司は、陽華の反応を見て、不思議そうに首を傾げていた。
「いや知り合いって程じゃないよ! 前に一回道でぶつかっちゃったってだけで。そっか、あなたが帰城さんのお兄さんだったんだ」
光司にそう言いつつ、陽華は意外そうな顔でそう呟く。どうやら、陽華は穂乃影の兄という事柄から影人に接触してきたようだ。




