第641話 光と影は、交わらない(2)
「ああ、そうだ。少し縁があって、夏休み中に君の妹さんと会ったよ。穂乃影さん、可愛らしい妹さんだね」
「ッ・・・・・そうか。言っとくが、妹に色目は使うなよ。手を出したら許さねえからな」
光司の口から穂乃影の名前を出された影人は、少し驚いたような顔になった。穂乃影は真夏、アイティレ、風音たちとも面識があり、真夏たちと同じ光導姫だ。ならば、光司と面識があっても不思議ではない。
(いや、それを言うならあいつは朝宮とも面識があるのか。穂乃影はたまたま学校近くで朝宮と会ったって言ってたが、今思えばあれは嘘で穂乃影は光導姫としてあいつと関わってたのか)
影人はふとそんな事を思った。どうやら自分と違い、穂乃影は自分が関わるまいと思っている者たちと関わりを持ったようだ。
「もちろん。君の妹さんにご迷惑を掛けるつもりはないよ。――そうそう、そういえば帰城くんは今年の文化祭はどうするつもりだい? 僕たちの学校は、公立高校では珍しい事に屋台とかの出し物をしてもいいだろう。しかも個人やクラスや学年の垣根を超えて自由にさ」
「その調子で俺にも迷惑をかけるな。――別に何もやるつもりはない。クラスの強制出し物以外はな」
そんな話題を振ってきた光司に、影人は仕方なしといった感じでそう答えた。どうせこの吹っ切れた光司に、冷たい拒絶の言葉を放っても無駄だと半ば諦めているからだ。ならば、普段以上にボロを出さないように気をつける事しか影人には出来ない。
ちなみに光司の言っている文化祭とは、風洛高校で9月下旬くらいに行われるものだ。文化祭は3日間に渡って行われその期間の間、風洛高校は大いに盛り上がる。その形式もいま光司が言ったように、公立高校にしてはかなり自由なものだ。
「そうか。なら・・・・・僕と一緒に文化祭で何か出し物をやらないかい? 君と一緒なら、きっとすごく楽しいよ」
「何をどう聞けばその結論になるんだ・・・・・・・却下だ却下。俺は文化祭中はぐーすか寝ると決めている」
「それは残念だ。なら、また気が向いたら僕に声を掛けてほしい。君からの言葉、待ってるよ。じゃあ、僕はこれで」
光司は爽やかな笑みを浮かべそう言うと、スタスタと先に行ってしまった。
「・・・・・・誰が声かけるかよ。はあー・・・・・・・」
影人はボソリとそう呟くと、大きなため息を吐いた。香乃宮光司は本当にいい人間ではあるが、影人にとっては今のところ面倒極まる人間でしかない。
こうして、影人の学校生活はまた始まったのだった。
「おー、お前ら。帰りのホームルーム始めるぞ。立ってる奴らは席につけー」
午後3時過ぎ。早いもので、今日の授業はもう全て終了した。ガラガラと影人の所属する2年7組の教室の扉を開けて入室してきたのは、このクラスの担任である榊原紫織で、紫織は入ってくるなりやる気のなさそうな声でそう言葉を放った。




