第640話 光と影は、交わらない(1)
「クソが・・・・・・眠いし暑いし最悪だ・・・・」
影人は朝だというのに茹だるような暑さを誇る太陽を、前髪の下から睨みつけながらそんな言葉を呟いた。
8月27日月曜日、午前8時10分。夏休みが明け今日からまた学校が始まるという日、影人は風洛高校の夏服を着ながら約1ヶ月ぶりとなる通学路を歩いていた。
周囲には影人と同じく風洛の夏服を着た学生たちが、久しぶりに会った友人らと楽しげに話している。長期休暇明けならではの光景である。
「・・・・・ん? ありゃ暁理か」
何気なしに前方を見た影人は、自分から少し離れた位置に女子生徒と楽しげに話す数少ない友人の姿を見た。シャツにズボンという格好に、ボブほどの髪の長さは一見すると男子のようだが、影人は彼女が女子であるという事を知っている。
「・・・・・・・ふんっ! べー!」
暁理は後方にいた影人の視線に気がついたのか、ふと後ろを振り返った。影人の姿を確認した暁理は、不機嫌そうな顔を浮かべ、影人に向かって舌を出して来た。そしてすぐさま前を向き、何事もなかったように女子生徒とまた話し始めた。
「ガキかよ・・・・・・・」
暁理の反応を見た影人は呆れたような表情を浮かべた。どうやらファミレスでの事をまだ根に持っているらしい。あの様子だと、まだしばらくはあの調子だろう。
「――やあ、帰城くん。夏休み明け初日に君の顔を見ることが出来て、僕は幸運だよ」
影人がそんな表情を浮かべていると、スッと影人の横に1人の男が現れた。爽やかな笑顔の影人とは対照的なイケメンである。
「・・・・・・・・・・俺は最悪だぜ、香乃宮」
影人は軽く頭を押さえながら、自分に話しかけて来たイケメンの男――香乃宮光司にそう言葉を返した。
「・・・・・気安く話しかけんなよ。迷惑な事この上ねえ」
影人は光司に拒絶の言葉を投げかけた。それは影人の心から言葉ではないが、光司に対する影人のスタンスを表している。つまり、影人は光司と関わる気はないというスタンスを。
「それはごめんよ。でも、君の姿を見たらどうしようもなくって。どうか許して欲しい」
「そういうのは女子に言ってやれ・・・・・・ったく、吹っ切れた奴ほど厄介な奴はいねえな・・・・・・・・」
光司の言葉を受けた影人は、ガリガリと頭を掻きながらそう言葉を述べる。光司は夏休み中に真夏の家の倉掃除を一緒に行って以来、影人にまた話しかけるようになってきたのだ。何か勝手に吹っ切れて。




