第636話 カケラ2つ、休暇の終わり(2)
「しばらくか・・・・・ああ、そうだ殺花さんよ、今のところは誰が戻って来てるんだ? 呼び戻された目的も気にはなるが、それは後で女主人サマに聞かされるだろうしな。もし時間あるんだったら、ちょいと教えてくれねえか?」
ゾルダートはメガネをスーツのポケットに仕舞い、固めていた髪を手で崩しながら殺花にそう聞いた。ついでにシャツの第1ボタンも外し、ネクタイも緩める。基本的にゾルダートはこういう堅苦しい服装が大嫌いな人種だ。ゾルダートがかっちりとした服装をしている理由は、その方が印象がいいからである。でなければ、誰がこんな動きにくい服を着るものか。
「承った。いま現在この本拠地にいる闇人は、私とゾルダート殿。後は冥だけだ。冥は地下にいる。クラウン殿は近くの街で大道芸やら手品をしに行っている。わざわざレイゼロール様にまた力を封印してもらってな」
「クラウンらしいねえ。そういえば、フェリートさんとあの化け・・・・シェルディア様はどうしたんだい? あの2人は確か100年前ここに残る形になってただろ」
クラウンのくだりでゾルダートは少し呆れたような顔になった。今の言い方だと、クラウンは1度封印を解いてもらったのに、また闇人としての力を封印してもらったのだろう。封印をするにも、封印の解除をするにも殆ど1日かかるというのに、近くの街に手品をしに行くためだけに、それをレイゼロールに頼んだというのは、ゾルダートから言わせてみればかなりどうかしている。どうやらクラウンも何も変わっていないようだ。
「ああ、その辺りを話すのは我々がレイゼロール様に招集を受けた理由と関わって来るのだが・・・・・・・・今は端的に言おう。フェリート殿はゼノ殿を捜しにしばらく前から外に出ているらしい。シェルディア殿、それにキベリア殿は日本の東京のどこかに居られる。後、響斬殿も現在は東京だ」
ゾルダートにそう聞かれた殺花は、残りの分かっている「十闇」の動向を伝えた。殺花からその情報を聞いたゾルダートは「はあ?」といった感じの顔を浮かべた。
「日本の東京? おいおい、何でまたそんな場所に『十闇』のメンバーが3人もいるんだ? ゼノさんをフェリートさんが捜しに行ったって言うくだりも、よくわからねえし・・・・・・・いや、呼び戻された理由を聞いてない俺がこう言うのは、ちょいおかしいけどよ」
ゾルダートはスラックスのポケットからタブレット菓子の箱を取り出すと、タブレット菓子を2粒口に入れた。そしてそれをガリッと噛み潰す。これはゾルダートの癖のようなもので、情報を整理したい時や落ち着きたい時は、こういった物を噛み潰すのだ。
「だが、何かが動いてるって予感はするな。そいつが面白いもんなら、なおいい――」
ゾルダートがニヤリとした笑みを浮かべ言葉を紡ごうとすると、新たに第3者の声がこの場に響いた。
「ようクズ野朗、帰ったかよ! 元気に戦いまくってたか?」
新たに暗闇の中から現れたのは、黒の道士服に長い髪を三つ編みに纏めた男――「十闇」第6の闇、『狂拳』の冥であった。冥はゾルダートの顔を見て、どこか嬉しそうに笑っていた。言葉もかなり乱暴であるが、冥の言葉に悪意や嘲りの意志は感じられない。




