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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第634話 その闇人、最悪につき(6)

「お、俺は・・・・・」

「どうする? 全員死ぬか、お前だけでも生き残るか。言っとくが、お前が拒否れば普通に俺はお前を殺すぜ? わかるだろ?」

 苦悩するゾルにスーツ姿の男は畳み掛けるように言葉を放つ。ゾルはスーツ姿の男が本気だと言うことに気がついていた。スーツ姿の男の目は、人の命を何とも思っていないもののそれだったからだ。

「俺はお前だからチャンスをやったんだぜ? さっきお前は人を何人も殺してきたって言ってたが、あの言葉は本当だろ? 俺にはわかるぜ。なんせ、俺も数え切れないくらい殺してるからな。同じ人殺しの匂いは分かるんだよ」

 スーツ姿の男は甘く甘くゾルにそう囁いた。

「お前は男だ。やるとなったらやれる男さ。なら、どうすればいいかは分かるよな?」

 スーツ姿の男は鞄から手袋を取り出しそれを装着すると、ゾルの拳銃を拾いゾルの後ろに回りながら、それをゾルの左手に持たせた。もちろん、ゾルの背中にはスーツ姿の男の拳銃が突き付けられている。

「さあ、どうする?」

「俺は・・・・・・・・」

 ゾルは右腕の激痛に耐えながらなんとか立ち上がると、ゆっくりと仲間たちの元へと歩いて行った。左手に拳銃を握り締めながら。

「いいぞゾル。やっぱりお前はチャンスを生かせる男だ」

 ゾルの後ろには悪魔がついていた。甘い言葉を吐く、残忍な悪魔が。

「お前らとは・・・・違うんだよ!」

 そして、ゾルはかつての仲間たちに拳銃を向けた。

「狙うなら頭を狙えよ」

「待ってゾルさん俺たちは――!」

 スーツ姿の男の楽しげな声のアドバイス、仲間の最後の言葉、それらの後に、

 乾いた銃声が5発、路地裏に響いた。












「はあ、はあ、はあ・・・・・!」

「よくやったなゾル! お前は出来る奴だぜ。約束通り、お前は見逃そう」

 5体の頭を撃ち抜かれた死体の前で荒く息を吐くゾルに、スーツ姿の男は満面の笑みを浮かべそう言った。

「さてと、こいつももう用はないし仕舞わないとな」

 スーツ姿の男は、ゾルの背中に当てていた拳銃を離すと、それをスーツの内ポケットに戻した。

「・・・・・・・・悪かった、いやすいませんでした。俺は手を出しちゃいけない方に、手を出してしまいました・・・・・」

 ゾルは未だに震えながらも、スーツ姿の男に頭を下げた。ゾルから謝罪されたスーツ姿の男は、気分が良さそうな顔でこう言葉を返した。

「いや、もういいぜ。しっかりと謝る事も出来るのは、出来る奴さ。それより、早いところズラかるか。路地裏って言っても、銃声が聞こえて通報されてるかもだからな」

「そうですね」

 ゾルは気がつけば、スーツ姿の男に従順になっていた。死体をそのままに路地裏から離れようとすると、スーツ姿の男が思い出したようにこんな言葉を掛けてきた。

「ああ、そうだ。ゾル、お前の拳銃俺が処分しといてやるよ。俺はこのあと違う国に行く予定だからな。お前はそんな証拠を持ってる必要はねえ。ほら、俺に渡しな」

「本当ですか? すいません、ご迷惑おかけします」

 優しげな表情で手袋をした右手を差し出してきた男に、ゾルは再び頭を下げた。そして、ゾルは自分の拳銃をスーツ姿の男へと手渡した。

 それが、悪魔の罠だとも気付かずに。

「よしよし、確かに受け取ったぜ。ん? ちょっと頭にゴミがついてるな。取ってやるよ」

「いや、悪いですよ。自分で取ります」

「いいからいいから」

 そんな会話をして、スーツ姿の男はゾルの頭に右手を近づけ――

「え・・・・・・?」

 ゾルの左のこめかみに、ゾルの拳銃を突きつけた。

「あばよ」

 そして、スーツ姿の男はニコニコとした顔で引き金を引いた。

 ゾルは何が何だかわからない内に絶命した。

「バカが。嘘に決まってんだろ。くくっ、これだからバカはやりやすい」

 スーツ姿の男は増えた死体を見下ろしながら、笑い声を上げた。全く、おかしくて仕方がない。どこのどいつが、攻撃してきた相手に素直に拳銃を渡すのか。

「さて、後はこの銃をこいつの左手に握らせて・・・・・・・・・よし、こんなもんだろ。これで仲間割れの末に、絶望して自殺した感じに見える」

 スーツ姿の男はゾルに拳銃を握らせると、満足げな顔を浮かべた。男は自分が巻き込まれないように、そういった構図を初めから頭に思い浮かべていたのだ。

「うし、オッケーオッケー。やっとこさこの場所を去れるぜ」

 スーツ姿の男はゾルが抜いた血塗れのナイフを綺麗にタオルで拭い、それを鞄に戻し手袋を外すと現場を見渡し頷いた。

「血は・・・・・飛んでねえな。だが発砲しちまったから、売店で消臭スプレー買うか。列車の時間もまだ大丈夫そうだしな」

 スーツ姿の男は即座にその現場を去った。表通りに出ると、パトカーのサイレン音がどこからか聞こえてきた。どうやら誰かが通報していたようだ。間一髪といったところか。

「っと、一応メガネは掛けとくか。紳士っぽく見られた方が、色々と融通が効くからな」

 男は思い出したようにスーツのポケットからメガネを取り出し、それをつけた。スーツ姿の男の目は悪くはない。これは伊達用のメガネだ。

「そういや、さっきのガキの名前ゾルだっけか? 奇しくも俺の今使ってる名前と似てるな。まあ、どうでもいいが。さっさと女主人サマ(ミストレス)・・・・・・レイゼロール様の所に戻らないとな。明日か明後日には着くだろ」

 そう言ってスーツ姿の男――「十闇」第5の闇、『強欲ごうよく』のゾルダートは、その本性を隠しながら、道行く人々に紛れるのであった。

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