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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
632/2051

第632話 その闇人、最悪につき(4)

「さて・・・・・・商談も終わった事だし、そろそろ目的地を目指すかな」

 まさか、街のギャング崩れのような連中からターゲットにされているとは思ってもいないスーツ姿の男は、電話を切ると少し冷めてしまっていたコーヒーに口をつけた。

 スーツ姿の男はコーヒーを全て飲み干し、スマホをスーツの内ポケットに入れると、右手に手提げのカバンを持ってカフェテラスを後にした。コーヒーの料金はもう事前に払っていた。

「おう、そこの道行くにいちゃん。ちょっと面貸してくれよ」

 スーツ姿の男が歩道を歩いて近くの駅に向かおうとすると、前方に男が立ち塞がりそんな言葉を掛けてきた。タンクトップを着た粗野な感じの若者だ。

「私・・・・ですかね? すみませんが、今は少し急いでいまして・・・・・・・」

 スーツ姿の男は困惑したような顔になりながら、その若者にそう言葉を返した。スーツ姿の男の身長は180ほどだが、タンクトップの男はそれよりも高いので見上げる形だ。しかし、その男は退きそうになかったので、仕方なくスーツ姿の男が踵を返そうとするが、それは叶わなかった。

「へへっ」

 なぜならば、後ろにもタンクトップの男の仲間と思われるような者たちがいたからだ。そして、スーツ姿の男はその男たちに囲まれた。

「そう言うなって。すぐにすむからよ」

「・・・・・・・・・・」

 こうして、スーツ姿の男はゾルとその仲間たちによって、路地裏へと連れて行かれてしまった。

「さて、にいちゃんはすぐに戻りたい。俺たちも面倒な用事はすぐに済ませたい。だから手早くいこう。――おい、金目の物全部寄こせ」

 人の目の届かぬ路地裏にスーツ姿の男を連行したゾルは、すぐに自分の本性を現した。

「あ、あの勘弁してくれませんかね・・・・・? ここで身ぐるみを剥がされしまっては、私は次の目的地に行けないんです」

 スーツ姿の男は情けない顔で、ゾルにそう訴えてきた。ゾルはその訴えを聞いて、「あー」と頭をガリガリと掻いて苛立った。

「そういうのいいんだわ。ムカつくだけだし、ほら早くしろよ。次はねえぞ?」

 ゾルはズボンの内に入れていた黒い筒状のもの――拳銃を取り出すと、それをスーツ姿の男の額へとあてがった。

「俺はてめえみたいな奴を何人も殺してきた。お前もそういう奴らみたいになりたくなかったら、さっさと俺の言う事に従えよ」

「ひっ・・・・・!」

 ゾルに脅されたスーツ姿の男は、顔を青ざめさせながら震えた声を漏らした。そんなゾルとスーツ姿の男を近くから見ていた取り巻きたちは、「ぎゃははっ! 情けな!」「ゾルさん、やっちゃってくださいよー!」といったようなヤジを飛ばしながら、嗤っていた。

「わ、分かりました! ちょっと待ってください! 今すぐに――」

 ゾルに銃口を突きつけられたスーツ姿の男は焦ったように鞄をまさぐると、


「――てめえのくせえ口から、悲鳴を出させてやるからよ」


 ナイフを取り出し、それを拳銃を握っているゾルの前腕部に下から突き立てた。その一連の流れは洗練されており、流れるような仕草であった。

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