第631話 その闇人、最悪につき(3)
――ヨーロッパのとある国。時刻はちょうど正午を過ぎたあたり。シェルディアやキベリアのいる日本は現在夜だが、日本と時差のあるヨーロッパはまだお昼だった。
「あー、つまんねえな。なんか面白い事ねえか?」
そんなある国のとある街の路地で、1人の男がタバコをふかしながらそんな言葉を呟いていた。
見たところ20歳を少し過ぎた辺りの若者だ。茶髪のツーブロックの髪型で、がっしりとした体格。身長も190はあるだろう。タンクトップから覗く腕は丸太のように太く、右腕にはビッシリとタトゥーが入れられている。
「ドラッグパーティーしましょうよ、ゾルさん。金はそこら辺の奴から奪って、きっと最高に楽しいですよ」
その男の事をゾルと呼びながら、取り巻きの内の1人がそんな提案をしてきた。歳は大体男と同じか、それより少し歳下くらいか。残りの4人の取り巻きも、「いいっすね、やりましょうよ!」と乗り気だった。その4人も歳は提案をした男と同じくらいであった。
「ドラッグパーティーね・・・・・やり過ぎて飽きちまったが、他に面白そうな事もねえしな。しゃーねえ、んじゃそうするか。お前ら、金持ってそうな獲物見つけてこい。ソイツを路地裏に引きずり込んで身ぐるみ剥がすぞ」
ゾルと呼ばれた男はタバコを右手に持つと、取り巻きたちにそう指示をした。ゾルの指示を受けた取り巻きたちはそれぞれ頷くと、街に散らばっていった。
「ゾルさん、良さげな獲物見つけましたよ」
「おっ、マジか」
それから15分ほどすると、取り巻きの内の1人が戻って来た。ゾルはその取り巻きの男の案内を受け、獲物の元へと向かった。
「ほら、あそこのカフェにいるスーツの男。かなりいい身なりしてません?」
男が道路を挟んだ対面のカフェを指差す。いや、正確にはカフェテラスか。路面に面した席に1人の男が座っていた。
「ご契約の程、ありがとうございます」
その男は20代中盤くらいの見た目の男だった。黒いスーツに青色のネクタイ、革靴を履いたいかにもビジネスマンといった感じで、スマホで誰かと電話をしている。残念ながら、会話の内容まではゾルたちの方へは聞こえてこない。
顔はいかにも爽やかといった感じの顔で、メガネを掛けており、赤みがかかった黒色の髪は綺麗にセットされている。その男は全身から清潔感を放っていた。
「・・・・・・・・確かにいい身なりしてんな。一見すると普通のビジネスマンだが、スーツが高級だぜ。左手に見える時計も高そうだ。よし、あいつにするぞ。戻って来てない奴らに電話しろ」
ゾルは取り巻きの男にそう言うと、吸っていたタバコを地面に落としそれを踏んづけた。ゾルの言葉を受けた取り巻きは頷くと、散らばっている仲間たちに電話を掛ける。
「さあ、狩りの時間だ」
ゾルはズボンの内に入れている、ある物に触れながら酷薄な笑みを浮かべた。




